薫終了宣言

近未来性教育プログラム




 六

 「はいっ。そこまでです。皆さん、それぞれパートナーの身体から離れてください。」
 薫の声が教室内に高々と響き渡った。教室内の男女はそれぞれ余韻を愉しむ余裕もないままいきなり引き離されたのだった。
 「女子は私の声がするほうに、男子はその逆で教室の後ろの方へ下がってください。・・・・。はい、そうです。では目隠しをしたまま女子はさきほどポケットにしまった下着を出して身に着けてください。男子もペニスをズボンの中にしまってください。・・・・。皆さん、もういいですね。それではもう目隠しを取っても結構です。各自、自分の元の席に戻ってください。」
 生徒たちは言われた通り、それぞれ最初に居た席へ戻っていく。その間、まるで示し合わせたかのように、生徒達は下を向いて互いの顔を見合わせないようにしている。生徒が戻った席にはそれぞれ茶色の封筒が置かれていた。
 「これで本日の特別授業は終了です。各自、目隠しのアイマスクは机の上に置いて、代わりに置かれている封筒を持って退出してください。」
 薫は生徒等が少しずつ封筒を手にして教室を立ち去っていくのを見守っている。特に注意もしなかったのに、生徒達は互いに私語をするでもなく無言のまま一人ひとり別になって教室を後にするのだった。

 「さて、どうだったかな。最初の新世代性教育プログラムの手応えは、早乙女君?」
 授業の様子を報告に校長室へやって来た早乙女薫に校長は首尾を訊ねる。
 「え、ええ。おおむね上手く行ったと思っています。男女のカップルはほぼ完璧にすぐに出来上がっていました。目隠しをして手探りだけでお互いに異性を探し当てることがあんなに上手く出来るとは正直思っていませんでした。」
 「ふふふ。人間だって動物の一種に過ぎんのだ。動物特有の本能というものがあるのだよ。」
 「そう・・・なのですね? 多分、生徒たちもその本能に気づいたのだと思います。」
 「それで、その後はどうだった?」
 「かなりのカップルがお互いの異性の性器に手を触れていました。特に指示した訳でもないのに。」
 「そうか・・・。全てのカップルが、という訳ではなかったのだな。」
 「ええ、ほんの数カップルですが。」
 「その者たちには補習が必要なようだ。」
 「でもこんな事、本当にしていいのでしょうか。女子には短いスカートの下の下着を脱がさせ、男子にはズボンからペニスを露出させるなんて。そんな事、彼らの親たちがもし知ったら・・・。」
 「だからこの授業の内容については口外することは厳しく禁止しておかねばならないのだ。しかし、そうは言ってもそれはほんの最初のうちだけのことだ。一旦、異性に対する意識が芽生えてしまえば、こちらからそんな事を仕向ける必要もなくなる筈だからな。」
 「そんなにうまく行くものでしょうか。」
 「うまく行くに決まってるさ。もともと、我々教育者がそんなプログラムを組まなくったって男女というのはそういう風に惹かれていくものなのだ。それが今の社会で上手く機能しなくなったのは、あのリベラル派政権が社会を牛耳っていた間におかしな風潮を作り上げてしまったせいなのだ。我々はそれを元の自然な社会に戻していく使命を担わされているのだ。」
 「ええ、それは分かるのですが・・・。あまりにやり方が過激ではないかと。」
 「それは君が心配することではない。これは政府主導のプログラムなのだ。全てはこの誤った少子化の流れを是正する為なのだから。これからも続けてくれるね、早乙女君?」
 「は、はいっ。承知いたしました。」
 校長に一通りの結果を報告すると校長室を辞した薫だった。

薫

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