
近未来性教育プログラム
二十二
その夜、自宅へ戻った薫はその日あった第二段階の二つのカップルの行った性行為をモニタ画面で目撃したシーンを思い返してはつい自分の指で陰唇を慰めないではいられなかった。
(ああ、わたしもあんな若い子たちの時代に戻りたい・・・。)
薫は自分が新世代性教育プログラムの受講生になったことを夢見ながらオナニーに耽っていたのだった。校長が突然、徴妊制度を逃れる為に薫と性行為をしてもいいと言い出したこともオナニーをしないではいられなくなった理由の一つだった。校長の申し出は国の将来を憂えてではなく、(徴妊制回避をしたいんだったら俺にセックスをさせろ)と性行為を迫ったものに違いなかった。それはまた(どうせお前にはセックスをして貰う相手も居ないんだろ)という決めつけでもあった。それが事実であるだけに、余計悔しくて自分を慰めないでは居られないのだった。

「はーい。では、次の方お入りくださーい。えーっと、早乙女・・・、早乙女薫さん? ・・・ですよね。」
「あ、はいっ。早乙女です。」
名前を読み上げて不審に思ったらしい担当看護師の雰囲気に、薫も顔を見上げて看護師の顔を観た途端に思わず声を挙げそうになった。
「あ、貴方は・・・桐野、桐野美咲さん・・・ですよね?」
担当看護師の顔は忘れようもないものだった。自分の恋人だった中島健吾を奪って寝取っていった女だったからだ。
「こちらでのスタッフの個人情報はお教え出来ない決まりになっています。」
そう言って美咲は名乗らなかったが、桐野美咲であることは明白だったし、向こうも自分に気づいているのは間違いなさそうだった。
「こんな場所で働いていたのですか?」
「ですから、こちらのスタッフの個人情報は名前は勿論のこと、お話出来ない決まりなんです。」
「そ、そう・・・ですか。」
只でさえ来たくなかった薫だったが、今すぐにも帰りたい気持ちになっていた。しかしそのままここを立ち去ることは法律違反を犯すことになるのだった。
「では、こちらの椅子にお掛けください。あ、大丈夫ですよ。こちらでの施術の内容も一切外部には洩らされませんから。政府管理の個人登録情報にインプットされるだけですので。」
「で、でも・・・。」
「さ、どうぞ。」
美咲が薫に腰を下ろすように指し示しているのは、歯科医院で治療に使われるような椅子に似ている。それが妊婦の妊娠検査などの際に使われる施術用の特別な椅子が流用されていることに薫も気づいていた。
今となっては逃げだす訳にもゆかなくなった薫は仕方なく美咲が促している施術用の椅子に座らざるを得ない。
「両足はそれぞれこちらの踏み台の上に載せてくださいね。では、手首を固定します。」
「え、固定って? こんなの必要、あるんですか?」
肘掛けのようになった両側の椅子の台に置いた両方の手首に拘束具のようなものが巻かれていく。スタッフからすれば、パチン、パチンと留め具のバックルのようなものを嵌めていくだけのようだが、留められる方からしたら完全な手枷で自分ではもう外すことは出来ない。
モーターで自在に動かせるようになっているらしい足載せ台の足首にも同じような足枷が巻かれていく。
「ああ、心配しなくていいですよ。こちらに来られる方の中には施術中に『気が変わった』とか仰られて暴れ出す方も極希に居られるので、安全上一応固定する決まりになっているだけなんですよ。」
「そ、それは・・・。始めたらもう後戻りは出来ないっていう意味ですよね。」
「仰る通りです。政府の通達でそう決まっているのです。」
「ああ・・・・。」
覚悟を決めてやってきた薫だったが、後戻りは出来ないのだと聞かされて決心が揺らいでくる。
「控室で下着は取ってきましたよね。ちょっとチェックさせて頂きますね。」
桐野美咲は自分の正体を曖昧にしたまま、薫の手足を拘束した椅子のモーターをリモコンを操作して動かし、脚の位置を高くして左右に広げてしまう。

次へ 先頭へ