近未来性教育プログラム
二十四
「こ、この人・・・。網野さんじゃないの?」
大写しになったところで、両手を拘束されて裸の下半身を晒している男が嘗ての自分の恋人、網野アキラであることにすぐに薫は気づいたのだ。しかもその恋人は目の前にいる美咲に奪われたのだった。画面には美咲自身も看護師のナース服を纏った姿で現れて拘束されている恋人に近づいていくのだった。
「あら、貴女もちゃんと覚えていたようね。そうよ、こいつは網野アキラよ。懐かしい?」
薫はアキラに性交渉をせがまれて逡巡していたのを仲良しの女友達と思い込んでいた美咲に相談したのだった。そしてそのことを今でも後悔していたのだ。
「あらっ。私の事、睨んでいるわね。もしかして私の事、自分の恋人を寝取った女だとか思ってるんじゃない?」
「うっ。そ、それは・・・。」
「ふん。だとしたらそれは逆恨みってものよ。確かにこの男に近づいたら誘われたので一度は寝たわよ。でもこの男はとんでもない女誑し。っていうより、性犯罪常習者ね。女を誘っちゃ騙して犯してたのよ。騙されない女には薬を使って眠らせて、縛って犯すのがいつもの手口。女を物にすると、捨てるか監禁して慰み者にするか。私はすぐに気づいて逃げ出したけどね。私はアンタのいい人だからって言う言葉に騙されて近づいて危うく捕まるところだったわ。恨みたいってのはこっちの方よ。」
「そ、そんな・・・。」
「でも、最後は女に訴えられて性犯罪常習者として捕まったのよ。刑期を終えたけど、律新社会党時代に制定された性犯罪常習者特別措置法で釈放前に男性自身を去勢されることになったの。しかもその直前に徴妊制を担保するための精子採取に協力されてね。」
「そ、それって・・・? もしかしてそのシリンジに入っている精子って・・・。」
「察しがいいわね。そうよ、その通り。このシリンジに入っているのはアキラの精子よ。これをアンタに注入してあげようっていう訳。これ、私の密かな復讐よ。
「え、そんな・・・。そんなの嫌よ。あんな男の精子を注入されて妊娠するだなんて、幾ら徴妊制の為だって絶対嫌よ。」
「へえ、そうなの。嘗ての恋焦がれていた男の精子よ。ありがたく頂いたら?」
「アキラはその後、どうなったの?」
「そりゃ勿論、ちんぽと金玉を切り取られて社会復帰してるわよ。あそこが無くなって完全に性欲は喪ってるみたいだけどね。どう、逢ってみたい? 消息なら性犯罪モニタリングシステムでいつでも追尾出来るようになってるから。」
「二度と顔もみたくないわ。それよりお願い。どうか、別の人の精子にしてっ。あんな男の精子を注入されるだなんて・・・。」
薫は何とかそれを逃れようとじたばたするが、両手首と両足首を枷で固定されているのでどうすることも出来ない。
「そんなに嫌? だったら欲しくて仕方がないようにしてあげるわ。」
「ど、どういう事・・・?」
美咲は不気味な含み笑いを薫にして見せる。
「さっき言ったでしょ。ただのシリンジじゃなくて気持ちよくさせるシリンジに被せる特別の容器があるの。ほら、これよ。」
美咲が取り出してみせたのは、男性自身のモノを模ったシリコンゴムで出来た張型なのだった。
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