妄想小説
不妊治療外来
二十三
「優愛さん、じゃここに座って。」
医師は優愛にいつもの診察用のスツールを指し示すと、看護師が出ていった扉のほうへ向かう。優愛には気づかれぬように内側からそっと施錠する為だった。万が一にも誰かに入って来られないようにする為だった。
「どうですか、今日の調子は。いつもと変りないですか?」
「ええ。でも何だか緊張しちゃって。久々に着物なんか着たせいかしら。」
「その着物もとてもよく似合ってらっしゃる。旦那さんのお気に入りのものなんですよね。」
「ええ、でもリハーサルなのに変じゃありません?」
「いや、リハーサルだからこそ本番の時の気分になって貰わねばなりません。気持ちの部分が大事なのです。そうやって気持ちを高めていくのをあらかじめ経験しておかないと、いざ本番になって初めてだと余計に緊張してしまうものですよ。」
「そうですか。いや、そうですよね。今日は本番のつもりでよろしくお願いします。」
「判りました。では、こちらでお召し物をお脱ぎになって、襦袢だけになってください。」
「はい、わかりました。」
優愛がカーテンの付いた衝立の向こうへ消える。キュッ、キュッという帯が擦れる音だけが診察室の中に響いていく。
長襦袢だけになった優愛が出てくると、手を取って簡易ベッドのほうへ導いてゆく。優愛をベッドに座らせると、白衣のポケットからあらかじめ入れておいたビロードの帯を取り出す。
「今日も目隠しをさせて頂きますよ。私の顔が見えないほうが、雑念が入らず気持を集中することが出来る筈です。今日は貴方の前に居るのは旦那様だと思ってください。宜しいですかな。」
「はい、わかりました。」
「では手を縛りますよ。さ。」
医師は優愛の手首を取ると背中へ回わし、もう片方のポケットから縄を取り出す。優愛のほうも自分から両手を背中で交差させて医師が縛って来るのを待つ。
「うっ。」
両手首の縄が結び合されると、痛い訳ではないのについ声が出てしまう。これから起きることへの不安と期待がそうさせるようだった。
医師の手が優愛の背中を支え、もう片方の手が肩に添えられて優愛はゆっくりとベッドに押し倒される。両膝を抱えられてベッドに挙げられると、優愛はあとはただ医師に任せようという気持ちになる。
「気持ちをゆったりとさせて、ゆっくり息をしてください。」
医師はそう言いながら優愛の腰の帯紐を解き始める。優愛は息が荒くなりそうなのを必死で堪えている。思わず生唾を呑み込んでしまう。
医師の手が襦袢の裾に掛かったのが感じられた。膝のあたりからすうっと上へ向かって滑っていく。太腿のあたりにすうっと空気が流れたように感じる。太腿が半分以上露わにされたのだと医師の手の感触でわかる。襦袢の下は湯文字一枚きりだ。下腹部を蔽うものは他には何もないのだった。
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