妄想小説
不妊治療外来
十六
しかし医師の誘導通りには濡れてくる気配はなかった。もともと優愛はあまり自慰はしたことがない。それというのも夫が毎日のように求めてくるからだ。性交までは至らないのだが、身体はずっと愛撫され通しだった。だから自分で弄るという経験は殆どないのだった。
「先生、やっぱり駄目です。私、オナニーってあんまりしたことがないんです。夫が毎晩のように私を愛撫してくるので、自分ではしたことがないのです。」
「ふうむ、そうですか。そうだ。なら、こうしましょう。ちょっと待っててください。」
医師は自分の机に戻ると抽斗からビロードの帯を手にしてくる。
「さ、これで目隠しします。いいですか? 後ろで結びますよ。見えませんね。そしたら一旦、俯せになってください。そう。そしたら手首をこう、背中に回して・・・。そう、交差して。じゃ、縛りますよ。」
「え? 縛るんですか?」
「そう、貴方が毎晩旦那さまにそうされているようにね。」
「え、どうしてそれを・・・。」
「旦那さまが教えてくれたのですよ。ね、こうすると旦那さまとの夜と同じでしょ。じゃあ、もういちど仰向けにしますよ。さあ、どうです。旦那さまのことを頭の中で念じるのです。いいですか?」
医師は両手を後ろ手に縛られた優愛の無防備な太腿に手を触れる。
「あっ、駄目っ。」
「いいから、リラックスしてっ。貴方の目の前には旦那さまが居ますよ。優しく愛撫してくるのです。何故って、旦那さまは縛られた貴方が大好きなのです。ほらっ。」
「あ、いやっ。恥ずかしいっ。」
医師が太腿の内側に手を入れる。それを拒もうとするように両腿で挟み込んだ優愛だったが、すぐにその力が抜けてしまう。医師は太腿に滑り込ませた手の指先でそっと上に向かってなぞり上げる。
「ああっ、あっ・・・。」
優愛は思わず身体を仰け反らせる。縛られた感触が優愛に夜の営みを思い出させるのだった。
ピチャッ。
医師がそっと陰唇の中に滑り込ませた指先が音を立てる。
「ほおら、もう濡れてきた。」
「ああ、恥ずかしい。」
「乳首だって、ほら。こんなに立っちゃってますよ。ほら、気持ちいいでしょ?」
「ああ、いいっ・・・。ああ、駄目ぇっ・・・。」
目隠しをされた優愛には医師が目で合図して看護師の芙美子が近づいてきたのに気づかなかった。その手にはスポイトが握られている。医師が頷いて合図をすると、芙美子は肉襞に突き刺さないようにそっと陰唇の中にスポイトの先を滑り込ませる。
チュパッ。
「はい、いいですよ。身体を楽ぅにさせてぇ。ゆっくり息をしてぇ。はい、そう・・・。」
芙美子は医師に愛液を吸い取ったスポイトを手渡すと、医師の顎で示す指示で足音を立てないように診察室の奥へ消える。
「えっ? 誰か居るの? いやっ。」
「大丈夫。誰も居ませんよ。今、縄を解いてあげますからね。」
スポイトを傍らに置くと、医師は名残惜しそうに裸であられもない格好に縛り上げられた優愛の身体を目に焼き付けてから背中の結び目に手を伸ばすのだった。
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