妄想小説
不妊治療外来
十九
「と言う事は、もう一度検査をしてみなければ何とも言えぬということになりますかな。」
「左様です。安定して元気で濃度の濃い精液が得られればということになりますが、こればっかりは何度か検査を続けてみないと・・・。」
「仕方ありませんな。何せ、私も妻も全く係累がありませんのでな。このままでは遺産の遺しようもない訳です。ま、妻は若いので私が亡くなっても再婚は出来るかもしれませんが、私が死んだ後、後添いの子に遺産を残すというのも私にとっては何ともやるせなく。妻も私が亡くなっても他の誰かと一緒になるつもりはないなどと殊勝な事を申しますし、私との間に子供を持つことを望んでおりますので、何としてもと・・・。」
「はあ、左様ですか。まあ、男子たるもの、勃起して射精さえ出来れば子作りに年齢制限はないとも申しますしな、はははは。」
医師の高笑いに怪訝そうに眉を顰める権蔵ではあったが、妊娠の可能性はまだあると言われてほっと安堵に胸を撫で下ろした思いだった。
「では、検査のほうを。お~い、芙美子く~ん。」
「しかし、今日もうまく出せるかどうか・・・。」
「大丈夫ですよ。もし必要であればうちの看護師がお助け致しますので。なにせ、うちの看護師はとても優秀です。安心してお任せください。ああ、芙美子君。この方を採精室へ。」
「かしこまりました。さ、こちらへお出でください、遠山さま。」
「ああ。よろしくな。」
医師の最後の方の言葉は芙美子にも聞こえてきてはいたが、芙美子自身はそんな自信はなかった。前回もやっとの事だったからだ。
採精室の前で遠山の前に跪いて、帯を緩め下着を外すのを手伝う。遠山の褌はもう二度目であるので、吃驚してうろたえることもなかった。遠山が外した褌を恭しく受け取るとそっと畳んで脱衣籠の上に載せる。
「なあ、看護婦さん。今度もちょっと自信がないのじゃ。それでちょっと持参したものがあるのだが。」
「お写真でしょうか?」
前回の事があるので、芙美子もおそるおそる訊いてみる。
「いや、もう少し確実なものがよいかと思ってビデオテープを持ってきたんじゃが8mmカセットなので映せる機械があるかどうか・・・。」
「8mmカセットテープですか。確か多少古い機械ですが使えるものがあったかと思います。以前にもそういう患者さんが居られましたので。」
採精室の奥の棚をごそごそ捜していた看護師は、暫くするとそれらしい機械を取り出してきた。
「あ、ございました。テープはこれですね。今、セット致します。」
出してきた8mmプレーヤーをモニタ機に繋ぐと、老人から受け取ったテープを中にセットする。
「この間のようにやってくれると助かるのだが・・・。」
「わ、わかりました。では、こちらに横になって。」
芙美子は老人が(この間のように)というのがどこまでの事を指すのか思案していた。採精カップに取り込む事だけではなさそうだった。手淫だけで済むのか、口を汚す必要があるのかが気に掛かっていることだが、その場の成り行きで自分は看護師としての務めを果たすまでなのだと自分に気合を入れる。
テープが動き出すと時期に画面が明るくなる。カーテンはしているものの、下半身をしごいている芙美子の方からも画面が半分以上見えていた。芙美子が想像した通り、映っているのは権蔵の若い妻だった。三脚か何かでカメラを固定して撮っているらしく、正面を向いて正座する妻のすぐ後ろに権蔵が立って縄を扱いている姿が映っている。やがて妻は両手を後ろに引かれ戒めを受けたらしかった。その余った縄が胸元の乳房の上下にも回される。やがて着物の裾が割られ、襦袢の奥から若妻の白い太腿が覗いてくるのだった。
優愛の下半身を露わにした痴態が画面に出てくる頃から、老人の下半身のモノは勢いを増してきた。イチモツは芙美子の両手にすっかり任せっきりで、ひたすら画面の様子に集中しているようだった。声は落してあるが、画面の様子で若妻が喘ぎ声を挙げ始めたのが判る。すると途端に老人のモノはいきり立って反り上がった。
(来るっ・・・。)
芙美子が採精カップに手を伸ばした直後にそれは白濁した液を宙に迸らせた。あと一歩遅かったら、貴重な滴を無駄に撒いてしまうところだった。
「さすがだな。上手くなったものだ。今日こそは無理かと思っていたが、こんな量搾り取れるとは・・・。」
褒められたと理解していいのか芙美子は顔を赤らめて俯くしかなかった。
「で、どんなものだったのだ。そのビデオ映像とやらは。もう少し詳しく儂にも教えてくれ。いや、あの老人の今度の処置にも大変に参考になりそうなのでな。」
芙美子は自分の口からビデオ映像の模様を話すのは恥ずかしくて堪らなかったが、これも看護師の役目と割り切って訥々とビデオの様子を医師に話して聞かせるのだった。
「では二回目の検査の結果からはタイミングさえ上手く合えば妊娠の可能性は充分にあるという事なのですね。」
「そうです。ただ、ご主人の場合はお齢をかなり召されていますので何時でも随意に射精が出来るというのは難しいかと思われます。そこが一番の難関とも言えますな。」
「先生っ。仰るように夫はもうかなり高齢です。残された時間はあまり多くはありません。そのチャンスを無駄にしたくないのです。もうじき生理が始まります。今度こそ受精に結びつくように主人と致したいのです。バイアグラとかいう薬があるそうですね。それを是非処方して欲しいのです。」
「もうじき生理が始まると仰いましたかな?」
「ええ、ですからこの機会を逃したくないのです。薬の力を借りてでも主人の精力を高めて今度こそ妊娠出来るように頑張りたいのです。」
(生理が始まるので妊娠を目指してセックスをしたいとは・・・。もしかしてこのご婦人は排卵日と月経開始を勘違いしているのでは・・・?)
「生理が始まる予定日は?」
「明日か明後日にも・・・。」
「そうですか。バイアグラは確かに精力増強には抜群の有効性を持っておりますが、お齢を召した方には心臓に負担を与える可能性があります。」
「ですから何度も試せないと思っています。」
「そうですか。ならば今日はそれを処方致しましょう。ただし一回分だけですよ。それで上手くご主人をその気にさせられますかな。」
「大丈夫だと思います。主人には・・・、その、ある特殊な性癖がありまして・・・。私がして欲しいとねだれば間違いなくその気になる筈ですわ。」
「縛って欲しいとねだる・・・? しかしそれは毎晩してることでは?」
「あ、あの・・・。お尻に鞭を当てて貰うのです。鞭をくださいとねだるのです。変態とお笑いになるかもしれないのですが、主人にはそういう嗜好がありまして。毎回それをするのは私に可哀想だと思うらしく。でも、私がねだると必ず勃起します。」
医師は若妻が恥じらいも無く勃起という言葉を口にするのを聞いて必死なのだと悟る。
「そこはご夫婦の間の事なので、医師の私からは何も申しません。成功をお祈りします。」
医師は処方箋にバイアグラの処方を書きながら若妻には背を向けてニヤリとするのだった。
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