施術着

妄想小説

不妊治療外来



 十三

 医師は優愛が診察用着衣を受け取って羽織ろうとする際に、股間からも一瞬手を外したのも見逃さなかった。そしてそこには医師の企みのターゲットとなるものが生え揃っているのも確認したのだった。
 「奥さま。ちょっとお待ちください。もしかして、あそこの処理ままだ為さっておられないのですか?」
 「えっ? あそこの処理って・・・?」
 「ああ、陰毛のことですよ。あれっ、ご存じなかったですか。不妊外来の際には陰唇の内部を何度か診察しなければなりません。その際に、陰毛があると抜け毛などで、膣内に陰毛が混じり込む惧れがあるのです。雑菌の繁殖の元ですから、万が一を考えて、あらかじめ剃っておいたほうが安全なのです。」
 「え、そうだったんですか。ちっとも知りませんでした。え、どうしましょう・・・。」
 「大丈夫ですよ。そこのシャワー室で何時でも処理出来ますから。あ、でも・・・。普段剃り慣れていない方が急にやると、よく傷をつけてしまうことがあるんですよ。それこそばい菌が入り込む惧れがあります。よかったら私が代りにやりましょう。我々医師は手術の際にやり慣れているから安心ですよ。」
 「そ、そうですか・・・。じゃ、お願いします。」
 「それじゃ、この台の上に横になって。そう、足は左右、この踏み台の上にお乗せになってください。」
 何も知らない優愛は言われるがまま妊婦用の診察台に上る。ベッドの様なものに斜めに寝そべる格好になるのだが、両足は台に固定されて大きく開かざるを得ないのだ。
 医師の秋本は内科が専門なので手術などは殆どしない。産科も不妊治療のコンサルティングが主なので勿論こちらでも手術などはしない。そもそも不妊治療外来だからと言って陰毛を剃り落す必要などある筈もなく、すべては秋本の嘘なのだった。しかしそう言って嘘をいつも吐いているせいで、診察に来た不妊外来の女性の恥部を剃り落すのだけは、やり慣れているというのだけが唯一の真実なのだった。
 「両手はこちらの台に置いて。はい、そうです。じゃ、裾、持上げますね。気を楽になさっていてください。タオルを当てますからね。ちょっと熱いですよ。はいっ。じゃ、シャボンを塗りますね。」
 医師は剃り始める前に手術用の照明のようなライトを優愛の股間に当てる。それは剃り損ないを防ぐようあの部分を明るくする為のようであるが、実はライトにはカメラが仕込んである。剃りあげられていく女性の様子を動画で撮影する為なのだ。
 カメラの焦点はじつは剃りあげられる陰部ではなく、剃られる女性の顔のほうに合うように予めセットされている。マニアの間では、剥き出しにされていく陰部そのものより、自分の最も恥ずかしい部分を丸裸にされていく時の女性の表情こそがもっともそそるものだからなのである。

剃毛

 ジョリッ、ジョリッ・・・。
 優愛は恥ずかしさに顔を背けて陰部を見ないようにしているが、音だけで確実にあの部分がどんどん剥き出しにされていくのがわかる。あそこの部分が医師にはどのように見えているのかが気になって仕方ないのだが、それは不妊外来を訪れると決めた時から覚悟していた事だった。
 「はい、いいですよ。終わりました。いま、ここを拭いますからもう少しお待ちください。」
 再び熱いタオルがあの部分に当てられる。医師は剃り残しの毛が残っていないか丹念に確認しながら最後の作業を続けているようだった。

 「はい、いいでしょう。もう脚を閉じていいですよ。」
 医師にそう言われてほっとした優愛は、足台から片方ずつ脚を降ろしてやっとのことで股を閉じることが出来た。まだ陰唇の内部には不快な金属の検査器具の感触が残っている。
  「今度、旦那さまに来院して診察を受けるようにお話ししてください。御一緒でなくとも結構ですから。それと検査があることをお話ししておいてください。」
 検査とだけ言って、具体的な事は何一つ語らなかったが、あれの検査であることだけは優愛にも想像がついたのだった。それを説得させることが出来るか優愛には自信がなかった。
 「あの・・・。」
 「は、何か・・・。」
 「剃毛の・・・、事なんですけど。主人には剃って頂いたこと、内緒にして頂けませんか?」
 「ほう? と言いますと・・・?」
 「うちのはとても嫉妬深いんです。お医者さまとは言え、他の男性にあそこを剃らせたなんて言ったらどれだけ激怒するか・・・。」
 「ははあ。まあ、よくある話ですね。御心配なく。なに、ご自分で剃ったと仰ればいいのですよ。うむ、そうだな。貴方の為に剃りましたって言うのです。御主人への貞操の証しとしてってね。他の誰にも裸を見せられなくする為だと仰れば納得されますよ。それに男性はえてして、つるつるのあそこが好きなものですよ。」
 「まあ・・・。」
 医師が言う言葉を聞いて、優愛はそれこそ顔を真っ赤に染める。
 「えーっと、優愛さんは普段、和服が多いですか?」
 「えっ? ああ、主人と出掛ける時ぐらいです。普段家に居る際は洋服です。」
 「ああ、そうですか。じゃ、下着は普通のショーツですね。」
 「あ、ええ。」
 散々丸裸の陰部を覗かれた後でも、下着の事を訊かれるのは恥ずかしかった。しかしその後の医師の言葉は想像を絶するものだった。
 「オリモノの検査をする必要があるので、三日間同じ下着を穿き続けてください。出来れば・・・、そう色の付いてない白の物がいいんですが。三日後にそれを身に着けてまた来てください。勿論検査ですので、ライナーなどはご使用なさらないように。あ、まだ服は着ないでください。今、看護師に身体の測定をさせますので。」
 「え、身体検査ですか?」
 「ええ、妊娠の際に体格なども問題になってくる場合がありますので。あらかじめ測定はしておく必要があるのですよ。看護師の指示に従ってください。」
 「わ、わかりました。」
 そこまで言うと医師は診察室を出て行き、代わりに若い可愛らしい感じの看護婦がやってきた。受付をしてくれた年増の看護婦では無かった。
 「では胸廻りから測らせて頂きますので、診察着をお脱ぎになって両腕を肩より上に挙げていてください。」
 「あ、はいっ。こう・・・ですか。」
 「あ、いいですよ。はい、そのまま。トップバストとアンダーバストを測っていきますね。」
 同じ女性であっても、真っ裸で身体を測られるのは恥ずかしかった。優愛は痩せて見られがちだが、下着を取るとそれなりに胸は豊満なほうで、夫もそれが密かな自慢らしかった。
 「それでは次に腰回り、測りますね。ウェストとヒップ、太腿も測らせて頂きますので、腕はそのままもう暫く我慢しててくださいね。」
 看護師は優愛の前にしゃがみ込むと巧みにメジャーを優愛の身体に巻き付けていく。
 「股下も測りますので、済みません。メジャーの先があそこに当たりますけど、気にしないでくださいね。」
 あそこと言われて優愛は思わず身体をびくっとさせる。下着も付けてない裸の状態でメジャーの先が陰唇に触れると聞いて顔を赤らめる。看護師は慣れているのか優愛のあそこが無毛である事にはまったく動じていない様子だった。
 「脚、結構長いんですね。」
 看護師は褒めたつもりらしかったが、裸で居ることの恥ずかしさに優愛はそれどころではなかった。
 「はい、よろしいですよ。もう、お召し物を身に着けられても。」
 看護師はそう言ってカーテンの付いた衝立の方を指し示す。優愛は逃げ帰るかのようにカーテンの陰へそそくさと身を隠す。カーテン越しに看護師が平坦な口調で優愛に告げる。
 「ご主人に次までに来院されるように仰ってくださいね。ご主人も検査致しますので。」
 そう言われた優愛は、看護師が何を想像しながらその言葉を発したのかまでは知る由もなかった。

芙美子3

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