沙汰待ち

妄想小説

続・訪問者 悪夢の教団総本山


 二十七

 悦子が出ていってからすぐに呼出しがあるものと思っていた京子だったが、丸一日何の音沙汰もなかった。教祖様の碑女となる決意をして覚悟を固めていただけに、何の音沙汰もなしに放っておかれることが却って京子を不安にさせるのだった。

 献婚の儀を受けさせられてから、不思議とペニスを跨ぐ渇望感に身体が疼きを憶えることもなくなっていた。しかし京子はそれが薬が切れてきているせいだとは知らないのだった。
 その時、突然京子の部屋のドアがノックされた。
 「あ、はいっ。ただいま。」
 てっきり教祖様の呼出しだと思った京子はドアの前に急ぐ。しかしドアの外から入って着たのは顔の前を黒子のようなベールで覆った巫女の姿だった。
 「あの、教祖様からの呼出しでしょうか?」
 そう問いかける京子の言葉に返ってきたのは意外にも男の声で、しかも聞き覚えのある声なのだった。
 「しっ。すぐにこれに着替えなさい。」
 「そ、その声は樫山さま。」
 京子が渡されたのは白い装束に赤い袴の総本山のスタッフ達が着る衣装だった。それにベールの顔隠しのついた頭巾まで付いていた。
 「それを着こんだら私に付いてきなさい。ここのスタッフであるかのように堂々として、誰かに出遭ったら軽くお辞儀をするだけで言葉を発してはいけないよ。」
 「わ、わかりました。」
 京子には何が何だか判らなかった。が、樫山が救いに来てくれたのだけは理解出来たのだ。
 樫山は慣れた様子で廊下をどんどん突き進んでいく。京子も足早にそれに従った。樫山はエレベータの扉の前まで来るとボタンを押す。
 「あ、そのエレベータは・・・。」
 暗証番号が無いとと言おうとしたところで扉が開く。
 「さ、早く乗って。」
 樫山の掛け声に京子もさっと庫内に入ると、樫山は慣れた手付きで暗証番号を打ち込むのだった。
 「え、どうして・・・?」
 狐につままれた気分でいると、エレベータが突然動き出した。樫山についてエレベータから出ると、もうそこは最初に京子が総本山の建物に入った入口の扉だった。
 扉の外には一台の車が停めてあって、樫山は急いで助手席に乗る様に指示する。京子が乗るやいなや、車は軽くタイヤをスリップさせながら走りだしたのだった。

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