咲枝

妄想小説

続・訪問者 悪夢の教団総本山


 二

 京子は田嶋陽子の知り合いと名乗る関咲江という女性の訪問を受ける。陽子の知り合いというので警戒して門前払いをしようと試みるが、行方不明の田嶋の消息を何でもいいから掴みたいのだという必死の形相につい心を許して家にあげてしまったのだった。
 しかし咲江の田嶋陽子の消息を知りたいというのは殆ど嘘なのだった。家に招じ入れられてから咲江は、自分は実は陽子に替わって教団から使わされた新たなパートナーなのだと名乗り始める。その日から執拗な咲江の訪問が始まり、咲江は元の陽子の立場に居座ろうとする。そして、もう教団とは関わり合いたくないと断りを入れる京子の言葉を全く聞き入れないばかりか、黙って教団を去ろうとすればとんでもない仕打ちが待っていると脅されるのだった。
 最期にどうしたら教団との関わりを断ち切れるのかという京子の問いに咲江が洩らしたのが、唯一の道は教団の総本山へ行って、教祖に退団を申し入れ認めて貰う他は無いと宣告されたのだった。

 「それで、その教団の総本山へ行って何とか教祖様に面会させて貰って、退団をお願いしてこようと思うのです。」
 京子は自分を救ってくれた樫山に総本山に行くことを相談しに来ていたのだった。
 「そんなところへ独りで行って大丈夫なのか?」
 (私独りでは不安なので、一緒に行って貰えませんか・・・。)
 そういう言葉が喉の奥まで出かかったが、京子はその言葉を呑み込んだ。
 「今度は、私一人で解決してみます。私の個人の問題ですから。何でもかんでも、貴方に助けて貰うという訳にはゆきません。」
 「そうか・・・。」
 (そんな遠慮をすることはない。何でも私を頼ればいい)そんな言葉が返されるのをちょっとは期待していた京子だったが、樫山からはその言葉は発せられなかった。
 「京子。」
 「はいっ、樫山さま。」
 「その髪型はちょっと良くないな。」
 京子はセミロングよりは少し長めな髪を肩に垂らしていた。
 「髪を垂らしていると、より女っぽくフェミニンな感じにはなるが、隙があるようにも見える。髪は後ろで纏めてきっちり留めておいたほうがいい。ほら、この髪留めを使いなさい。」
 そう言って樫山は鼈甲のような渋い色の髪留めを手渡す。
 「いいんですか、これ?」
 京子は樫山から髪留めを受け取ると、長い髪を後ろで一纏めに束ねるとポニイテイル風に留める。
 「やっぱりその方がいい。より毅然とした風に見える。教団は何がなんでも辞めますときっぱりその格好で言うんだ。いいな?」
 「わかりました。そう・・・します。」
 そう言って京子は出てきたのだった。

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