浴衣着衣

妄想小説

続・訪問者 悪夢の教団総本山


 二十一

 悦子は京子が自分と背格好がそれほど変わらないので、翌朝用にも持ってきた替えの服を貸すことにする。教誨衣の僧衣では教団から逃げてきたのが判ってしまうので外を歩かせる訳にはゆかない。それでも京子が勝手に逃げたりしないように、持ってきた服の中で一番短いスカートを貸し与え、下着は替えがもう無いので我慢してと説得する。京子は特に怪しんではいないようで、ミニスカートとポロシャツだけでも貸して貰えたことに感謝していた。
 「今夜はもう何も聞かないことにするから、ゆっくり休みなよ。明日、どっか近くの駅まで送ってあげるから。」
 そう話して京子を安心させる。車で送ってあげると言っておけば勝手に逃げ出したりはしないだろうと判断したのだ。
 「あの、お名前を窺ってもよろしいですか?」
 「ああ、アタシ? 悦子って呼んで。」
 「悦子・・・さんですか。私は京子と言います。」
 「え、京子? あ、いや。知り合いに同じ名前のがいたもんで・・・。」
 京子とは初対面だった悦子は、同僚仲間の関咲江が預けてきた女が脱走者であったことに初めて気づいたのだった。
 「あの、悦子さん。お願いがあるのです。電話を掛けたいので、少しだけお金を貸して貰えないでしょうか。」
 「ああ、電話代ね。」
 自分の携帯を貸そうかと一瞬考えた悦子だったが、何か都合の悪いものを観られる可能性を怖れてホテルのフロントの公衆電話を使わせることにしたのだ。
 「10円玉、これくらいあれば足りるかしらね。」
 「ああ、本当にありがとうございます。必ずお返ししますから。」
 そう言うと京子は10円玉を握りしめてホテルのフロントへ向かう。その後ろ姿を見送った振りをしてから、こっそり後をつける悦子だった。

 「ああ、樫山さんですか? やっぱり助けて欲しいのです。・・・。ええ、そうです。・・・。えっと、今居るのは教団の総本山から南へ1時間ほど走ったところにある海遊亭という海岸沿いの温泉ホテルです。近くにお玉ヶ池峠っていうバス停があるので、そこへ迎えに来てくれませんでしょうか。・・・。ええ、そうです。・・・。ありがとうございます。では、明日。」
 話声を盗み聞きしていた悦子はバス停へ向かうと騙して連れ帰ればいいだろうと作戦を立てるのだった。

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