妄想小説
続・訪問者 悪夢の教団総本山
十八
廊下に誰も居ないのを何度も確認してから京子は秘密の隠し扉に急いだ。そして意を決してその中に飛びこむ。後は一目散に下へ下へと降りてゆくのだった。何度も踊り場を通り過ぎたのが、その度に京子は建物を一階ずつ降りているのを確信した。そして最後に平坦な廊下が続いている場所に出て、そこが一階に違いないと見当を付けた。しかしそこからは外に出る方法が判らなかった。頑丈なスモークの掛かったガラス扉を見つけたが、電子錠になっているらしく、何かを翳さなければ開かない仕組みになっているようだった。その扉の近くに壁が窪みになっている場所があって、そこへ身を隠すことにした。廊下はかなり薄暗いので潜んでいれば見つからない可能性もあり、京子はそれに掛けるしかないと思ったのだ。
暫く待っていると、数人の巫女たちが現れその扉の脇に何かのカードを翳して扉を開けると外へ出て行くのが見えた。よっぽど自分も飛び出そうと思ったが、人数が多いので気づかれる惧れがあると躊躇った。その少し後、今度は運よく巫女が独りで現れ自動扉にカードを翳した。
(今だわ。)
意を決した京子は独りの巫女が扉を開いてそこを通過した一瞬後、扉が再び閉まる直前にその扉を擦り抜けたのだ。そして前をゆく巫女が振り返る直前に暗闇の中に身を蹲らせたのだった。
(む? 誰か・・・居た?)
気配に気づいた巫女が振り返るのを、じっと身を縮こまらせて息を潜めていた京子だった。その巫女は気のせいと思ったらしく、足早に立ち去っていった。それを確認した京子は短い裾の僧衣が翻るのも気にしないで一目散に建物の外へと走り出たのだった。
その日の昼間の事だった。悦子は主に大伽藍の外の庭まわりの仕事をさせている寺男の吾郎を大伽藍裏手の外にある焼却場に呼び出していた。
大伽藍には、総本山に修行に来ている西洋風の修道女の格好をした外部の女性と修道者たちを指導する総本山のスタッフとして働く巫女の装束の女性たちとが居た。一方で男性修行者は西洋の修道者の様な格好の僧衣を纏い、それを指導するスタッフは神官のような衣装をまとっていた。男性と女性とは交互の階で厳密に区分けされ、大伽藍内部も二重の螺旋階段によって男女がお互い行き来が出来ないような構造になっている。エレベータも女性の階から男性の階へは暗号化によって行き来が出来ないようにプログラムされているのだった。
悦子は女性スタッフの巫女たちの指導係兼リーダー的存在だった。なので唯一女性スタッフの中で男性である寺男の吾郎と口を利く事を許されているのだった。
「ねえ、いい事。ちゃんとこういうのよ。国でおばあちゃんが危篤だって言うので一度会いに行きたいのでお休みを頂きます。二日だけ留守をさせてくださいってね。」
「うん。ボクっ、わかっただ。そうする。」
吾郎は知恵遅れで力仕事しか碌に出来ない。だからこそ、秘密の多い教団の下男として雇われているのだった。悦子も別に吾郎が好きな訳ではなかった。しかし総本山の大伽藍の内部に居る間は男日照りになるので、時折性の捌け口として吾郎を利用しているのだった。命令すれば何でも「はい、はい」と言う事を聞く吾郎を重宝して使っていたのだ。それが一度、教団の大祭壇の裏で事に及ぼうとしていて女修道院長に見つかりそうになり、大伽藍内部での性行為は難しいと思い、吾郎を外に連れ出すことを策略していたのだった。
「それでばれないように荷物をバッグにいれてバス停で待つのよ。そしたら私が車で通り掛かって駅まで乗せていくってことでお前を拾うからね。誰にも見つからないと思うけど、もし誰かに見られたらそう言うのよ。悦子姐さんがついでがあるから駅まで送ってくれるって言ったんですってそう言うのよ。わかった。」
「はあい。わかりましたです。」
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