妄想小説
続・訪問者 悪夢の教団総本山
二十
その夜の事だった。ホテルの食事処で夕食を吾郎と二人で済ませた悦子は、さてこれから本格的なセックスを愉しもうかという矢先だった。悦子の携帯電話が鳴ったのだった。
「あ、修道院長。どうかしました?」
「大変な事になったのよ。総本山から脱走者が出たの。あなた、今何処に居る?」
「どこって、隣町の温泉ですけど。」
「あなた、車に乗っていってたわよね。すぐに車を出して、そっち側を捜索して頂戴。バス通り沿いだけでいいわ。それ以外には逃げようもないからね。私達は山側を追っ掛けるから。いい、もし確保したら絶対逃がしちゃ駄目よ。え、・・・。そうそう。・・・。じゃ頼んだわよ。」
ツー。
「ちぇっ。今からいいところなのに。・・・。ね、アンタも付いて来なさいよ。力仕事が要るかもしれないし。さ、車出すわよ。早く着替えて。」
そうして悦子は修道院長に言われて仕方なく、脱走者の捜索に向かったのだった。
「あ、居た。」
車のヘッドライトが照らす遠い先に女の白い脚がちらっと横切ったのだ。
「ね、アンタ。後部座席の下に隠れてて。私がいいって言うまで小さくなって蹲ってるのよ。」
「はあい。わかりましたですぅ。」
悦子は女の白い脚が見えた辺りで車を停めるとウィンドウを下す。
「た、助けてください・・・。」
女のか細い助けを求める声がした。暗闇の中に蹲っているらしかった。
「どうしたの? 何かあったの?」
「私・・・。裸みたいな格好なんです。」
「ああ、大丈夫。私、独りだから。出ていらっしゃいな。」
悦子の声に暗がりから一人の女が立上る。確かに下半身は殆ど裸と言ってよかった。
(教誨衣ね。脱走者ってのはこいつか・・・。)
「さ、助手席に乗って。車の中ならそんな裸みたいな恰好でも大丈夫だから。」
「あ、ありがとうございます。」
京子が助手席に乗り込んでくると、悦子はちらっと後部座席を振り返って吾郎が見つからないか確認をしておく。
「私、逃げてきたんです。」
「そうらしいわね。それっぽい格好だもの。」
「助かりました。こんな誰も居ない山奥で。しかも、こんな格好だし。どうしようと思っていたところに車のライトが見えたので・・・。」
「そうだったの。ちょうどいいわ。私、この先の温泉宿に部屋、取っているの。取り敢えずそこへ連れていってあげるわ。」
「済みません。ありがとうございます。」
涙ぐんでいる京子をみると、悦子は車を宿に向けてスタートさせる。
悦子は宿の駐車場に一旦車を乗り入れると、京子を車の中に待たせておいて部屋に浴衣を取りに戻る。ホテルのフロントにはもう一部屋空いていることを確認して、一緒に連れてきた弟をそこへ泊らせることにしたと話しておく。本当は吾郎と泊るつもりだったのだが、万が一にも女を逃す訳にはゆかないからだった。
悦子は浴衣姿の京子を部屋に連れ戻す際に、フロントに駐車場の車の男に新しく取った部屋で待っているようにと伝言を頼んでおく。
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