総本山前

妄想小説

続・訪問者 悪夢の教団総本山


 一


 バス停で降りたのは京子独りだけだった。というよりも漁業と観光ぐらいしか産業のないこの半島を縦貫する路線バスは、オフ・シーズンということもあって、乗客そのものが京子ひとりだけだったのだ。辺りには人の姿は全くなく、一本道が続く広い草原の遥か彼方の先に黒っぽい建物が見えているだけだった。京子が見当をつけてその建物目掛けて近づいてゆくにつれ、どんどんその建物は大きく見えてきて、とてつもない大きさであることが徐々に判ってきた。
 (やはり、あれが総本山なのだわ。思っていた以上の大きさだわ。)
 京子は教団総本山の威容に、身の竦む思いがしてきた。一旦、中に入ったらもう二度と出てくることが出来ないのではと嫌な予感さえしてくるのだった。
 (でも、やはり行って、きっちりと片を付けてこなくては・・・。)
 そう決意を新たにする京子だった。

 その一週間前の事だった。京子はパートナーを組んで一緒に宗教勧誘の飛び込み訪問をしていた田嶋陽子が新たに恋人となった老人の影野久男と忽然と姿をくらましてからというもの、やっと自由の身になれたと安心しきっていた矢先だった。
 元々は田嶋から宗教勧誘の仕事を手伝ってみないかと誘われた時は、思いも掛けず結婚後早々に夫に先立たれ、亡き夫の両親から譲り受けることになった少なからずの財産のおかげで経済的な困窮は免れたものの、天涯孤独の寂しさに耐えきれずにいた時期だったので、その宗教の意味はよく分からなかったが田嶋に連れられて久々に外に出るというだけで、楽しい日々だったのだ。
 宗教勧誘には全く興味の無い京子だったが、話は殆ど全て陽子がしてくれるのでただ一緒に居てにこにこしていればいいという気楽な立場だったのだ。宗教勧誘の飛び込み訪問など、それと知れるとあっと言う間に門を閉ざされてしまうのが普通だったのだが、京子が陽子の前にドアに立ってチャイムを押して笑顔を見せると何故か受け入れてくれるのだ。
 京子自身は、自分は客寄せパンダなのだと薄々は感じていた。だが、誰かの役に立っているという妙な自負心が京子にやる気を出させていたのだった。
 しかし樫山哲男、影野久男、草野憲弘と次々と弱みを握られては性の慰みものに馴らされていくうちに、何とかこの蜘蛛の糸に掛かったような状況から抜け出さねばと思うようになったのだった。そんな窮地から京子を救い出してくれたのは意外にも最初に性奴隷の主人となった樫山哲男なのだった。樫山の采配で新たに性奴隷の主となった影野や草野、更には弱みを握られていた朱美とヒロシからも立場を逆転して奴隷的立場から解放してくれたのだった。
 京子の教団でのパートナーであった陽子も、影野を新たな恋人とすることで教団から去っていったので、漸く京子も自由の身になれたと思っていたのだった。しかし、その思いも甘い考えだったことを知らされたのは、陽子が逃げるように影野と身を隠してから一週間も立たない頃だった。

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