理科室の悪魔
第一部
六
キン・コーン・カーン。
授業終了のチャイムが鳴る。
「あーっと、じゃあ今日の授業はここまで。誰かこれっ。理科室まで運ぶの、手伝ってくれないかな?」
理科教師の須藤が教卓の上に並べられた理科実験機材の箱を指し示す。
「そんなの、学級委員がやればいいんじゃない?」
いつもの雑務の押し付けに学級委員を指名するのは決まって悪童グループの男子等の一人だった。本当は日直が決まっているので、それは日直の仕事ではないかと思うのだが、生真面目な性格の美津子は嫌がる様子も見せずにすくっと席を立つ。
「須藤先生、私が手伝います。」
「そうかい? 君は確か学級委員の前島だったよね。あーっと、そうだな。これだったら一人で運べるかな・・・。私は校長室に呼ばれてるんで、君一人で運んで貰えるかな。」
「はいっ。出来ると思います。」
美津子は実験器材が詰め込まれている木箱を両手で持ち上げる。
「そうだ。これ、理科準備室に入れておいて。はい、これ。理科準備室の鍵だから。」
そう言って理科教師は両手が木箱で塞がっている美津子に木札の付いた理科準備室のものらしい鍵を翳してみせると、ことわりもなく美津子の上着の腰の辺りにあるポケットにそれを滑り込ませる。その時に教師の手が美津子の腰にさりげなく触れるのを感じて美津子はどきっとする。
「鍵は職員室に返しておいてくれればいいから。」
「はい、わかりました。」
美津子は軽くお辞儀をすると、箱を抱えて別棟の理科室のある方へ向かうのだった。
理科準備室は教壇のある理科室前方の脇から入るのだが、理科室自体は鍵は掛かっていないが、準備室には鍵が掛けられているらしかった。
美津子は理科室の教卓の上に一旦荷物を置くと、準備室の鍵を開ける為にポケットに手を突っ込む。いきなり理科教師に自分のポケットの中に手を入れられた感触が蘇ってくる。
(何もポケットの中に入れなくても、木箱の中に入れればいいだけなのに・・・。)
美津子はあまり深く考えないようにして取り出した鍵を準備室の扉の鍵穴に差す。
理科という科目は得意なこともあって、好きな科目だった。理科室の独特の雰囲気も嫌いではない。数々の標本などが並んでいてクラスメートの女子たちは一般的には気持ち悪いと言っているが美津子にとっては興味が尽きない。そもそも理科が好きな女子というのは稀だった。
理科室では時々実験など授業で入ることはあったが、理科準備室は滅多に入ることの出来ない部屋だったので、美津子にとっては更に興味津々の場所だった。
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