理科室の悪魔
第一部
十六
美津子が目を覚ますと、自分が保健室のベッドで寝ていたことをすぐに思い出した。保健室の先生は検温をした後、(貧血でも起こしたんでしょう。暫く寝ていれば元に戻るわよ。)と言って美津子をベッドに寝かせたのだった。
ひと眠りしたら気持ちは随分と落ち着いてきていた。
(本当に貧血を起こしたのかもしれないわ・・・。)
質問をされて話を聞いていなかったことに気づいて、適当に気分が悪いのだと答えたのだが確かに精神的には参っていたような気が美津子自身もしていた。
起き上がろうとして保健室の中を見回した美津子の眼にあるものが入って目が釘付けになる。人体模型だった。
(保健室にも人体模型なんてあったかしら・・・?)
あまり保健室には入ったことがなかった美津子にははっきり記憶にはなかった。
「あ、起きたみたいね。どう、気分は?」
突然カーテンの向う側から保健室の先生が現れて優しく声を掛けてくる。
「は、はいっ。もうだいぶよくなりました。やっぱり貧血を起こしてたみたいです。」
「そう。もう起き上がれる? まだ無理しなくてもいいわよ。」
「ええ、先生。もう大丈夫だと思います。ねえ、先生。ちょっと訊いていいですか?」
「あら、何かしら?」
「あそこに人体模型が置いてあるけど、理科室にあるのと同じですか?」
「え? ああ、あの人体模型ね。そう言えば理科室にもあったわね、確か・・・。あの人体模型は女性の身体がモデルだけど、理科室のは男性の身体がモデルだったんじゃないかしら・・・。」
「え? 保健室のと、理科室のとで性別が違うんですか?」
「そう決まってる訳じゃないかもしれないけど・・・。保健室のは女子に女性の生理について教えたりすることがあるからかしら。理科室のは男性の身体にしか付いていないものがあるせいかも。」
(それは男性器のことを言っているのかしら・・・? でも、アレって大きさが随分変わるものだから・・・。)
「私は理科室の人体模型って、あんまりよく観たことがある訳じゃないからはっきりしたことは言えないけど、そんなに厳密に男女の造り分けはしてなかった気がするわ。それに最近は保健室でも人体模型を使って女子に生理のことを教えるなんて滅多にないから。人体模型なんて本当に必要かわからないわね。」
美津子はもう一歩踏み込んで訊きたかったが、そこで踏みとどまることにした。保健室の先生に何故そんな事を訊くのか詮索されては困ると思ったからだ。
「それじゃ、これで失礼します。」
もう気分がよくなったので教室に戻ると宣言して保健室を出る際に、美津子は気づかれないように人体模型の前を通り過ぎながら模型の下半身をしっかり確かめる。その部分はつるっとして何も無く、女性器の形すらしていなかった。
(この人体模型にも女性器を模った本物そっくりの挿げ替え部品があるのだろうか?)
そんな疑問を持ちながらもその質問を保健室の先生に出来ないのがもどかしい美津子だった。
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