早坂廊下

理科室の悪魔



 第一部



 十

 その日美津子が職員室のある廊下を歩いて行くと、今しも職員室から出てきたばかりの様子の音楽女教師、早坂先生の姿を認める。日曜の学校は閑散としていて人の気配は少ない。しかし当直の先生は居る筈と美津子は見当を付けていた。その当直の動向をまず抑えておくほうが見つからないように隠れながら行動するより賢明だと考えていたのだ。
 「あ、早坂先生。おはようございます。先生が今日は当直なんですか?」
 「ええ、そうなの。あら、貴方6年A組の前田さんだったわよね。今日はどうしたの、休みの日なのに?」
 「あの、学級菜園の水遣り当番の子が急に具合が悪くなってしまって、代わりを頼まれたんです。」
 「まあ、学級委員だといざという時の仕事を色々頼まれて大変よね。ご苦労さま。」
 「先生はこれからどっかへお出かけですか?」
 「ああ、そう。音楽室のピアノを調律に来られることになっているのでその立会をしなくちゃならないの。」
 「先生の方も大変ですよね。休みの日なのに、当直もあって、ピアノの調律の立ち合いまでしなくちゃならないんだなんて。」
 「ええ、まあね。でも仕方ないわね。調律の立ち合いは他に代わって貰える人も居ないから。」
 「それじゃ、先生。また。」
 「さよなら、前田さん。菜園の水遣り終わったらさっさとお帰りなさいね。せっかくのお休みなんだから。」
 「はい、先生。さようなら。」
 そう言って美津子は暫くその場に立って音楽教師が立ち去るのを見送る。職員室前の廊下で当直に出遭ってしまったのは却ってラッキーと言えた。それで暫くは職員室は空になる筈だからだ。音楽教師が渡り廊下から音楽室のある棟に入ってしまうのを見届けてから美津子は職員室に忍び込む。鍵の場所はしっかりと憶えていた。教頭の後ろのキーボックスをこっそり開けると、理科準備室の鍵を抜き取る。いざという場合の為に一緒に学級菜園整備用倉庫の鍵も借り出しておく。万が一鍵を戻しに来た時に当直や他の先生が居た場合の言い訳にする為だった。

 理科準備室の鍵をスカートのポケットにしまうと美津子は理科室のある棟のほうへ向かう。音楽室のある棟とは隣の棟になる。もしピアノの音が聞こえていれば、その間は安全ということになるのだ。



mitsuko

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