理科室の悪魔
第一部
十三
「あっ、あ、あの・・・っ。」
あまりの驚きに美津子にはどうしても(違います)という言葉が喉から出て来ないのだった。須藤にそのモノを胸元まで突き付けられて、つい美津子はそれを手に取ってしまう。
「さ、君の手でそれを元のところに嵌めこんでみ給え。」
美津子は催眠術者の手で操られたかのように手にしたその部品を震える手で振り向くと人体模型の股間部分にあてがう。その部品は模型に吸い寄せられるかのようにぴたっとその部分に嵌まったかのように見えた。
(は、嵌まったっ・・・。)
しかし次の瞬間、それは無残にも股間からポトリと落ちて机の上に転がってしまったのだった。
(え、どうしてっ?)
「それは嵌め合いの為のボッチが折れてしまっているのだよ。誰かがそれを不用意にいじって床にでも落としたんだろう。その時に折れてしまったのだよ。それをしたのが誰だか君は知っているよね?」
「えっ? そ、それは・・・。」
「この人体模型の各部位は物凄く精密に繊細に作られているものなのだよ。だから不用意にいじったりすると接合部分が壊れてしまうことがあるんだ。精密で繊細に作られているものだけにとても高価なものなのだよ。これを壊したのは君だね。」
「い、いえ・・・。そ、それは・・・。それは違うんです。決して態とじゃないんです。」
「認めるんだね、君が壊したんだと・・・。ならば皆の前で私が壊してしまいましたとお詫びをしなくてはならないね。それから君の親御さんにも報告しなくてはならないな。」
「そ、そんな・・・。こ、困りますっ。どうか、それは許してくださいっ。お願いです。このことは内密にしてはいただけないでしょうか?」
美津子は思いも掛けなかった展開に打ち震えて眼からは涙が溢れてくる。
「秘密にして欲しいというのだね。うーむ。それだったらまずはそこに膝をつきなさい。」
「は、はいっ。」
美津子は土下座で謝るのだと覚悟した。
「ほんとうに申し訳ありませんでした。こ、心から・・・。」
美津子が両手を床に付いて頭を下げようとしたその時だった。
「待ちなさい。私に秘密を守って欲しいのだったら、君も私との間で秘密を持って貰わないといけない。」
「えっ? 先生との間で秘密・・・?」
「さ、これを着けるんだ。」
須藤は何時の間にかポケットから幅のある布切れを取り出していた。黒っぽいビロードのような布地だった。それをどうしていいのか戸惑いながら膝をついてしゃがみ込んでいる美津子の眼の上に被せると頭の後ろで結わえ付けたのだ。
「私に秘密を守って貰いたいのなら、これから訊くことに正直に答えるのだ。いいね?」
「えっ? あ、はいっ・・・。」
美津子は自分がしでかしてしまったことを内密にして貰えるかもしれないと思うと先生には逆らわずに何でも言うとおりにしようと覚悟を決めたのだった。
「君は理科準備室で人体模型にある物が付いていることに気づいた。それは今まで自分が見た事のないものだった。だからどうしてもそれに触れてみたくなった・・。そうだね?」
(先生に今逆らってはいけない。)美津子の心の声がそう自分自身に囁きかけていた。
「は、はい・・・。そうです。」
「そしてそれが自分が思ってもみなかった大きさで、思ってもみなかった格好をしているのに気づいた。だから本当にその大きさでそんな形になるのか興味を惹かれた・・・。違うかね?」
「えっ? ・・・。そ、そうです・・・。」
「だったら、もう一度こちらに手を伸ばして両手でそれを握ってみるんだ。」
「あっ、はい・・・。」
美津子はあの人体模型の股間に付いていた冷たいプラスチックの塊を握らされるのだと思った。しかし美津子が握らされたものはもっと柔らかく、そして生温かった。
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