理科室の悪魔
第一部
十一
理科室のある棟は当然のことながら人の気配は全くない。それでも大きな足音は出来るだけ立てないように慎重に美津子は歩いていった。
前の日に、学級菜園の水遣りを担当の子から代わりを申し出たのは美津子の方からだった。担当の子が友達に日曜日は水遣り当番があるから遊びに行くのは遅くなると話していたのを小耳にはさんだからだった。その女の子に、自分も学校行事の用で日曜に呼ばれているのでついでに代わって水遣りをしておいてあげてもいいわよと申し出たのだ。そうやって美津子は人の居ない日曜日に学校に忍び込む大義名分を得たのだった。
美津子はどうしてももう一度何とか理科準備室に忍び込んで人体模型の股間の様子を確かめずにはいられなかったのだ。迂闊に美津子が触ったせいで勃起した状態の男性性器が布の下で外れたままなのか、誰かが気づいて元に戻したのか確かめておかねばならなかった。その前に、本当にあの人体模型に勃起した男性性器が本当にあったのか、美津子が想像しただけだったのではないかと半信半疑でもあった。本当にそんなものが存在するのだと確信するにはもう一度じっくりと眺めてみる必要があると美津子は考えたのだった。
理科準備室の廊下側の小窓から覗き込むとまだ人体模型が置かれたままであるのが分かる。しかしその股間部分は向う側を向いているので廊下からは確かめることが出来ない。
美津子はポケットの鍵を握りしめると当初の予定どおり、理科準備室に忍び込む為にまず理科室に入り込むことにする。
理科室に入ると、まず音楽室のある側のカーテンの掛かった窓を少しだけ開けてみる。遠くから規則的にピアノのキーを叩く音が聞こえてくる。
(まだ調律をやっているのだわ・・・。)
その音が途切れない限りは当直の先生がこちらにやってくる心配はないのだった。ピアノの音を確認すると、美津子は理科準備室への扉の鍵穴に持ち出してきた鍵を挿し込む。
音を立てないようにそっと準備室の扉を開けると中に滑り込んだ美津子は真っ先に人体模型の傍へ歩み寄る。
(えっ?)
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