理科室の悪魔
第一部
一
その日、美津子が母校の小学校を訪れてみようと思ったのはほんの気まぐれからだった。元々は今度赴任することになる母校の中学校を赴任に先立って訪ねておこうと思ったのがきっかけだったのだ。それが遠い昔棲んでいた町の古い駅を降り立った途端に小学校の頃の想い出がふと脳裏を横切り、中学校の前に思い出の小学校も訪ねてみようという気になったのだ。中学校の方は赴任先での教務が始まれば毎日通わなくてはならない場所なのだからということもあったからだ。
小学校、中学校と通っていた頃に棲んでいた実家はもうとっくに無くなっていた。高校の時から同じ県内ではあるが、少し離れた高校まで越境で長距離を時間を掛けて電車で通っていたこともあり、郷里の同級生からも縁遠くなっていたし、大学は家を出て大学の寮に入っていたので実家に帰ることも殆どなかったし、教師になって最初の赴任地で地方に出てからは相次いで亡くなった父母の葬式に出たのが唯一の実家帰りで、最早郷里とも言えないような町になっていた。
それでも駅から小学校までの道は迷うことはなかった。街並みも相当変わってはいたが昔の面影も残っていない訳ではなかったからだろう。
(こんな感じだったかしら・・・?)
偶々開いていた校門を抜けてひと気のない構内に足を踏み入れてみて、美津子が意外に自分の記憶にある景色と符合しないのに不審感さえ抱き始めていた。その時、構内の一番奥にひっそりと建つ三階建ての鉄筋校舎が目に入って初めて懐かしいという気持ちが蘇ったのだった。
(そうだ。あれだわっ・・・。)
いささか古びてみえるその鉄筋校舎は、美津子の記憶の中ではびかびかの真新しい校舎だった。
(そっかあ・・・。あれが私たちの母校で最初に出来た鉄筋校舎だったんだわ。)
美津子はやっと校門を潜って入った母校が自分の記憶に違和感があることをやっと理解した。美津子たちが通っていた時代には校舎は全て木造の平屋造りだったのだ。それが美津子たちが最終学年に入る最後の春に初めて鉄筋校舎が出来たのだった。木造校舎が鉄筋コンクリートの三階建てに建て変わっていく極初めの頃に美津子達は小学校の最終学年を迎えたのだった。美津子たちの学年はこの学校で最後の年を迎えることになるということで優先的に新しい鉄筋コンクリートの校舎に入ることが出来たのだった。そこまで思い出した途端に、それまですっかり記憶から抜け落ちていた様々な小学生時代の記憶が蘇えってきたのだった。
次へ 先頭へ