理科室の悪魔
第一部
二十六
美津子は屋上の出入り口に付いている曇り硝子に自分の姿が写らないようにドアの端に身を寄せて反対側の様子を窺おうとしていたその時だった。
「美津子っ。居るのか・・・?」
その声は副委員の樫山に違いなかった。
「樫山クン・・・なの? そこに居るの?」
「ああ、樫山だよ。そんなとこで何してるんだ? もしかして閉じ込められているのか?」
「う、うん・・・。そうなの。ねえ。そっち側からこのドアの鍵って開けられないかしら?」
「待って。あ、多分、このノッチを回せば開くんじゃないかな・・・。」
「待ってっ。まだ開けないでっ。わたし、スカートもパンティも穿いていないの・・・。」
「やっぱりそうか。実はここへ上がってくる前に三階の教室に女の子のスカートとパンティが落ちているのを見つけたんだ。お前のなんだな?」
「多分そうよ。ねえ、今持って来てるの? だったら鍵を開けてドアを少しだけ開いてっ。私、両手を後ろ手に縛られているの。ドアの隙間から手だけ出すから縄を解いてくれない?」
「分かった。今、鍵を開けるから。隙間から手を伸ばしてっ。」
美津子はドアの隙間から縛られた両手だけを突き出すと樫山に縄を解いて貰う。樫山もドアの向こう側を覗き込まないようにしてくれているようだった。
「あ、やっと解けた。じゃ、スカートとパンティを渡すから穿き終わったら声を掛けてよ。」
「ありがと。助かったわ。」
ドアの隙間から突き出されたスカートと下着を受け取ると急いで身に着ける。やっと樫山の前に出られるようになって漸く美津子は屋上から脱出出来たのだった。
「誰にやられたんだ?」
「分からないわ。声も立てなかったし、何人も居たし、皆お面を被ってたから・・・。まあ、だいたいは想像はつくけどね。でも、私がここに居るってどうしてわかったの?」
「俺の靴箱にお前からの手紙が残ってたんだ。それで変だなって思って。もしかしたらってお前の靴箱も探ってみたら、お前を呼び出した手紙を見つけたんだ。もちろん俺が書いたものじゃないよ。」
「それで私が新校舎の何処かに居るってわかったのね。助かったわ。」
「あいつらの仕業だな。だから気をつけろって言ったろ? しかし酷いことするよな。スカートもパンツも奪い取って後ろ手に縛ったうえで屋上に閉じ込めるだなんて・・・。先生に訴えるのか?」
「ううん。誰と誰がやったか想像はつくけど、はっきりとした証拠はないもの。証拠もないのに告発したりは出来ないわ。私が油断したのがいけないのよ。でももう決して油断はしないわ。」
「そうだな。お前があんなに簡単にやられるなんて、相当油断してたんだよね。」
美津子もそう言われて初めて自分が簡単騙されたのは手紙が樫山からのものだと思い込んだせいで浮かれていたからなのだと深く反省したのだった。
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