妄想小説
プール監視員
その8
実は里美は美沙子がハイレグの水着の端から陰毛をはみ出させてプールサイドを廻っているのも気づいていた。普段から身だしなみには気を付けている美沙子が不注意で陰毛を晒しながら歩いているとは到底思えなかったのだ。里美は判っていてそうしているのに違いないと美沙子の様子を見守っていたのだった。
(何かあるのだわ。)
里美は美沙子の身に降りかかっているらしいことに大きな懸念を抱いていたのだった。
「ねえ、美沙子。あなた、何か困っていることがあるんじゃない? 」
控室で二人きりになった時にいきなり里美にそう切り出されて、美沙子はびくっと肩を震わせる。里美には何も悟られないようにと細心の注意を払っているつもりだったからだ。
「え、何でそんな事を・・・。困ってる・・・事なんで別にないわ。」
「そうなの? なら、いいけど。」
美沙子の言い方に、里美は裏に何かあると確信したのだった。
「今日は塾の進路相談があるので、一人で帰るわね。」
「あら、そうなの・・・? じゃ、いいわ。私も一人で帰るから。」
そう返した里美は、美沙子の言葉には嘘があると見抜いていた。
家に一度戻った里美は黒っぽいジャージに着替え、中学まで愛用していた竹刀を布袋に入れて室内プールのある建屋に戻って来ていた。建物には入らずそばの植込みの陰に隠れて待つことにしたのだ。
里美の勘どおり、美沙子はプールが閉館されて1時間ほど経った頃、自転車に乗って一人でやってきた。いつもの白いワンピースの私服だった。しきりに辺りを覗うようにあちこち見渡している。誰かを捜しているというよりは、誰にも見つからないようにしているように里美には見えた。やがて室内プールのある建物の入り口までやってくると、ポケットから鍵らしいものを取り出した。
(合鍵を持出しているのだわ。)
美沙子がこっそり音も立てずにプールのある建屋の中に吸い込まれるように消えていくのを見届けると、里美はゆっくりと立上る。里美自身も辺りを覗ってみる。もし美沙子が誰かに呼び出されたのだとすれば、誰かが待ち構えている可能性は充分に考えられるからだ。しかし、その者共はすでに建物の内部に潜んでいるのかもしれなかった。
人の気配がないのを確認すると、里美もゆっくりと音を立てないように室内プールのある建物に近寄っていった。
(夜の8時にプールに一人で来ること。その後の事は追って指示する)そう紙切れに書いてあった。その紙はプールサイドで放尿をするように命じられた時と同じ様に、美沙子のロッカ―の中に角封筒に入れて置いてあったのだ。何度無視してしまおうと思ったかしれなかった。しかし、その後に起こるかもしれない事態を予想すると、放ってはおけないのだった。
下駄箱で履いてきたパンプスを脱ぐと裸足になって中に進む。備え付けのスリッパはあるのだが、ペタン、ペタンと音がするのでそれを使うのは控えたのだった。裸足の素足にリノリウムの床はひんやり冷たかった。
館内の灯りは既に落されているのだが、あちこちに設置されている常夜灯があるので、目が薄暗さに慣れてくると、館内の様子がおぼろげながら見て取れるのだった。
美沙子は(プールに来る事)と指示されているのは、プールサイドのことを指しているのだと何となく察していた。それで受付の前を擦り抜け、更衣室への狭い廊下を過ぎると、更衣室から消毒用の水槽を渡ってプールのある大きな部屋へ出てみる。足洗いの消毒水槽は既に水は落されていて足を濡らすことはなかった。
広々としたプール室はがらんとして人の気配は無かった。しかしある一箇所にだけ煌々と明かりがついているのが見える。プールを見渡せるガラス張りの監視ルームのすぐ手前に小さなテーブルがあってそこに明かりはあった。普段は館内に注意を呼びかける為の拡声器などが置いてあるテーブルだが、そこの上に置かれているらしい灯りでその付近が明るく照らされていた。美沙子が近づいていくと、テーブルの上には大き目の非常用懐中電灯が明かりを点けたままで置かれているのが判った。美沙子が近づいていくと、既に乾いているプールサイドの床がヒタリ、ヒタリと足音を立てる。
テーブルの上の懐中電灯が照らしている場所には、一枚の紙切れの上に黒々と光る何かが載せられている。
(この目隠しを着けた上で、手錠を後ろ手に掛けて待っていろ)
紙切れにはそう書かれていて、確かに紙の上には黒光りする手錠とアイマスクが置かれているのだった。咄嗟に美沙子は男子トイレの個室に呼び出された時の事を思い出した。その時と同じだった。目隠しのアイマスクを着けて後ろ手に自分で手錠を掛けてしまうと、もう何も抵抗出来ない格好になってしまう。そんな美沙子は、男の手で散々に蹂躙されたのだった。
(い、嫌っ・・・。)
その時のことがまざまざと思い出されてくる。男は美沙子が何も抗えないのをいいことに、股間を散々に弄んだ上でトイレが我慢出来なくなるように何かを呑まされそのまま放置されたのだった。
(ああ、二度とあんな事っ・・・。)
思い出したくない記憶を振り払うようにして、美沙子は後ろへ後ずさる。その時背後でガタンと音がするのが聞こえた。
「誰っ?」
美沙子のうわずった声ががらんとしたプール室内に響き渡る。
ギィーッという音がして、プール用具室の扉が薄く開いたのが美沙子の目に留まる。やがて薄く開かれたその扉の陰から人の頭らしいものが覗いたのが判った。美沙子が息を潜めて見守っていると、更にもうひとつの頭が見えてくる。最後にもう一人頭を見せたかと思うと、三人の男が薄く開かれた扉から現れた。顔は薄暗くてよく見えないが、何かで顔を被っているようで表情は見て取れない。
(逃げなくちゃ・・・。)
咄嗟にそう思った美沙子は更衣室へ抜ける狭い通路を目掛けて脱兎の如く走りだした。その様子に気づいてプール用具室の三つの影も走り出した美沙子の方向へ走って来る。
「嫌っ。」
美沙子が更衣室へ抜ける通路へ足を一歩踏み入れた瞬間にスカートの端を掴まれたようだった。ビリッという音がして美沙子のお気に入りのワンピースが何処かで裂けたのが判った。それも構わず美沙子は走り続ける。美沙子は二の腕を掴まれかかったが、かろうじてそれを振り切った。
「おい、絶対逃がすんじゃねえぞ。」
受付のある玄関ホールに出ると、美沙子は靴を履いている間はないと思った。裸足のままで玄関扉を擦り抜ける。
「待てっ、こら。逃がしはしねえからな。」
追っ手等が続いて玄関扉を擦り抜けようとしたその時だった。
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