妄想小説
プール監視員
その23
やって来たのは何時もの様にストッキングのような覆面で顔半分を隠していたがマサとヒロシと名乗っているいつもの二人組だとすぐに分かった。すぐに里美は応戦出来るよう身構えるが、二人は襲ってくる様子は見えなかった。しかし手には黒光りする手錠が握られている。
「ま、そんなに身構えなさんな。今日はお前を犯しに来た訳じゃないんだからな。商品に手を付けると兄貴にこっぴどく叱られるしな。勝負はまだこの先なんだ。まだリラックスしてな。」
「ただし、この手錠はして貰うからな。おっと、その前に着替えて貰わなくちゃならないんだった。ほれっ、これ。お前の制服水着だ。持ってきてやったよ。」
「水着に着替えて来いっていうの。」
「いや、着替えて来るじゃなくて、ここで着替えるんだ。逃げられる訳にはいかないからな。この間散々犯されたんだ。今更恥ずかしいって事はあるめい。さっさと素っ裸になってこれを着るんだな。」
屈辱の思いで自分の水着を受け取ると、ブラウスのボタンを外し始める。スカートを降してブラジャーを外し、ショーツを下す時にはさすがに二人に背を向ける。しかし裸の尻を覗かれるのは避けられない。ハイレグの水着に脚を通し、肩まで引き上げると二人に向き直る。
「やっぱ、プール監視員はその格好が一番そそるな。さ、手錠だ。これを後ろ手に嵌めな。」
里美はもう抗っても無駄なのだと悟り、おとなしく手錠を受け取ると自分から後ろ手に手錠を掛ける。
「ルールってほど難しいものはない。ただ、時間が来るまで逃げるだけだ。時間はいつもの休憩時間の放送だ。それまで逃げ延びれば今日はそのまま返してやる。もし捕まれば・・・、ひひひ。その後はお客のお好み次第ってわけだ。ま、せいぜい頑張るんだな。」
「お客って・・・? 逃げる? どうやって・・・。」
「じゃ、そろそろ俺たちはこの場から退散して高みの見物とするからな。あ、言っとくが更衣室の扉は鍵が掛かってて、そっから外には出れないからな。念の為。」
そう言うと、二人は悠然と里美を残して男子更衣室のほうへ去ってゆく。代りにやってきたのは、初めて見る男だった。もしかすると以前プールに泳ぎに来ていた誰かかもしれないが、プールに来る男は多過ぎていちいち憶えていられない。顔半分は同じようにストッキング状の覆面で隠しているがその下に血走ったような目つきが見える。男は競泳用のようなビキニタイプの水着一枚を穿いているだけなのだが、明らかにその下で男のモノは勃起している。
「わ、わたしをどうしようって言うの?」
「ふふふ。聞くまでもないだろ。男と女がふたりっきりでこのプールの中だ。他には誰も居やしねえ。」
里美は身の危険を感じて男の動きから目を離さないようにしながらゆっくりと後ずさりをする。しかし男の方も同じペース、いやそれよりも少しだけ早いペースで里美に近寄ってくる。
いきなり男が里美の水着の腹に両手を伸ばしてきた。
「何すんのよ。」
男の手が届く前に里美の右足が蹴りかかる。しかし、男は里美の足をすらりと身を交わして避けていた。
「なるほどな。お前の足業には気を付けろと言われていたが、このことか。しかし両手が使えないんじゃ、時間の問題だな。さて、いくぞ。」
男は里美の蹴りを充分気を付けながら身を低くして飛びかかる体勢で構え始めた。里美は逃げ回るべきか、男と蹴りだけで立ち向かうべきか迷った。室内プール場はかなり広い。しかしそうは言っても袋小路だ。所詮は壁に遮られる。逃げおおせるとは思えないし、何時かは追い詰められる。
男が再び手を伸ばしてきた。すかさず里美は足蹴りを入れる。しかし男の手はフェイントだった。空を切る里美の足首を男の手が捉えた。
「しまった。」
足首を掴むと、男は身体を回転させながら里美の足を捩じ上げ床に倒そうとする。
「ううっ・・。」
咄嗟に男が捩じり上げようとする方向に男より素早く身体を回転させ身を宙の浮かせてもう一方の足で蹴りこむ。男は肩をいきなり強く突かれて思わず手にしていた足首を放してしまう。男の手が離れたところで、体勢を立て直し一旦男から離れようとジャンプしかかる。しかし一瞬早く男の手が里美の両手の自由を奪っている手錠の鎖に届いた。男は手錠を手繰り寄せると里美の背中からタックルのような格好で里美を抱え込む。レスリングの技だった。背面から抑え込まれてしまうと蹴りを相手に与えることが最早出来ない。里美はタックルされたままの格好で俯せに倒されてしまう。
「へっへっへっ。これならもう蹴りも使えまい。」
里美は足をじたばたさせるが、男に有効な打撃を与えることが出来ない。手錠で両手が封じられているために何も出来ない自分が情けなかった。
「さあて、それじゃあそろそろお前のおっぱいも蹂躙してやろうかな。」
背中に身体を押し付ける格好で里美を抑え込んでいた男がじわりじわりと里美の上半身のほうへにじり寄ってくる。里美のハイレグの水着は肩のところを横に下されてしまえば上半身は剥き出しにされてしまうのだ。男の手がようやく里美の水着の肩の部分に届いた。その瞬間、里美の手錠を掛けられた両手も男の下半身に到達したのだった。里美は見えないながら手探りで男の一物を自由にならない手で思いっきり握り上げた。
「うぎゃあああ。」
男は堪らず悲鳴を上げる。里美は本能的に屹立した怒張の部分ではなく、その裏側の男の一番の急所部分を握り上げたのだった。
男は堪らず里美の身体を離して股間を抑えて転げまわる。その隙に里美は一気に立上る。男に膝から身体を落としてトドメの一撃を加えるべきか一瞬躊躇する。下手をすると再び男に組付かれてしまう可能性があったからだ。里美は男から身体を離すほうを選んだ。
「く、くそう。やりやがったな。もう赦さんぞ。」
男は股間を抑えながらも何とか立上る。里美は室内プールの壁際沿いに走った。途中更衣室への入り口でそちらに向かおうか迷ったが、マサの更衣室の扉は鍵を掛けてあるという言葉が思い出されてそこを走り過ぎる。ロッカー室や更衣室で袋小路になってしまったらそれこそ逃げ場を失うと思ったのだ。
しかしプールの壁沿いに逃げたところで最後は壁に突き当たる。プールサイドを走り回ったところで男の足が追いつかないとは限らない。何せ自分は両手を後ろ手に繋がれていて走るにもバランスを取り難い。後ろを振り向きながらもどんどん走りながら逃げていくが、次第に距離が詰まってきているのは里美にもはっきり感じられた。男が伸ばした手が里美の尻を掠めた。慌てて身体を捩じって振り解いたがもう時間の問題だった。
(イチかバチかだわ。)
そう里美が心を決めると手錠を嵌められたままの格好でプールの中に飛びこんだのだ。
「ふん。そんなところへ逃げたって所詮は逃げおおせんぞ。」
男もプールの中に入ってきた。しかし男は水の中をじわりじわりと里美に歩み寄ろうとしているのだった。
(もしかして泳ぎが得意ではないのかも・・・。)
里美は態と男をプールの中央付近まで誘き寄せたところで、息を大きく吸うと一気にプールの中に潜り込む。バサロ泳法という足だけを主に使うドルフィンキックの潜水泳法だ。手を殆ど使うことなしにかなりのスピードで進むことが出来る。あっと言う間に中央付近の男をやり過ごし反対側のプールの縁まで泳ぎ切った。男が目の前を潜水したままの里美が通り過ぎようとするのを潜って手を伸ばしたものの、一歩届かなかったのだ。
反対側のプールの端で頭を出して息を継ぐ里美に男は地団太を踏んで悔しがる。
「くそう。水の中に入ったらすばしこい奴だ。しかし、もう逃がさんぞ。」
再び男は手で水を掻き分けるようにしながら里美に向かって猛然と水の中を歩いてくる。その様子をじっと見ながら男のどちら側を擦り抜けるか見極めた里美は再び一気に水の中に潜り込むとドルフィンキックだけで滑るように泳いでいく。
「畜生、すばやい奴め。何とかならんのか。」
そう男が呟いた瞬間に懐かしいメロディが館内に響いてきた。
「休憩時間に入ります。水難事故防止の為、監視員の笛の合図に従って一旦自らお上がりください。」
男にとっては非情の終了の合図なのだった。
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