バイブ自慰

妄想小説

プール監視員



 その3

 あの日以来、里美と仲良くだべりながら誘い合ってプールの監視員の仕事を一緒にやっているのは、全く変わりないつもりの美沙子であったが、やはりどこかに今までには無かったわだかまりを感じてしまうのであった。真理子は、男友達のことや男子生徒等の噂話なら気楽に里美にも話が出来るのだが、セックスの話は苦手であった。というより、話題に出来なかった。里美のほうからは、時々半分からかうように、きわどい話を持ちかけてくることはあった。が、美沙子が真に受けて顔を真っ赤にして動揺してしまうので、それから先に発展することは無かったのである。
 それに、あの時覚えてしまった感触は、未だに美沙子の身体の奥底に疼きとしてはっきり刻み込まれていた。監視の仕事を終えて、着替える前にシャワーを使っている時も一人の時は、自然とあそこの部分に洗う振りをしながらシャワーヘッドを押し当ててしまうのだった。
 美沙子は里美にあれをどうやって手にいれたのか、使っているとどんな感じがしているのか、どのくらい頻繁にあれを使っているのか、いろいろ聞いてみたくてたまらなかったのだが、さすがに自分から切り出すことは美沙子の差恥心が許さなかった。また、休みの日にこっそり忍び込んで、黙ってあれを使ったことも罪悪感があった。
 美沙子にとって、飛んでもない出来事が始まったのは、あの日から一週間たった日のことだった。

 その日は、珍しく里美が休みで美沙子ひとりでプールへ来たのだった。控室に入って、着替えをしようとしていると、男子監視員の先輩の浜野が(ちょっと、美沙ちゃん。)と声を掛けた。振り向くと、白い封筒に入った手紙を差し出している。
 「どうしたんですか。わたしに。」
 「あ、誤解しちゃ困るな。俺からじゃないよ。今朝一番で、プールの入り口で渡されたんだ。女子監視員の美沙子っていう人に渡してくれって。」
 「ふうん、どんな人かな. . . 。」
 美沙子は厳重に封された裏側を苦労して剥がしながら聞いた。
 「それがね、ちっちゃな小学生くらいの子でね。どうもその子も誰かに頼まれたみたいだったんだけどね。」
 ようやく封が取れて、中を引っ張り出すと一枚の写真が入っている。(何だろう。)と思ってじっと見つめた美沙子は、はっと気付くと息が止まりそうになった。
 写真には妙に艶めかしい女の長い脚が広げられているのは写っている。最初はどんな格好しているのかも分からなかったが、よく見ていくと、椅子の上に深く倒れこむように仰向けに寝そべって脚を机の上に載せて大股開きにしている。そして、その脚の付け根の部分に両手で黒い棒のようなものを突き立てている。顔はこちらを向いて陶酔しているようにも見えるが目の部分に黒いマジックが塗ってあって誰だか分からないようにしてある。しかし、美沙子はすぐに先週プールに一人で忍び込んだときに盗み取りされた自分の姿だと確信した。
 みるみる自分の頭から血の気が引いていくのが分かった。脚がガクガク震えている。
 「ね、は、浜野さん。これっ、渡した子ってどんな子だった。」
 「どうしたの、美沙ちゃん。ラブレターかい。. . . あっ、御免。そんな顔で睨むなよ。そうだよな、ええっと。忘れちゃったなあ。どこにでもいるような小学生って感じだったからなあ。」
 美沙子は、普段から間抜けそうな浜野の顔が更に間抜けに見えた。しかし、どうも余りはっきり覚えていないのは本当らしかった。
 美沙子は写真を気付かれないように胸元にしっかり抱え、奥のカーテンの陰に隠れると再び写真を引っ張り出してみた。それは間違いなく自分だった。どこから撮られたのか見当も付かなかった。が、望遠が使われているのか、細部まで鮮明に写っている。
 写真をひっくり返してみると、金釘流の字でメッセージが書いてあった。
 (この写真をバラまかれたくなかったら言うことを聞くこと。さもなければ、プールのあちこちに修正していない写真を貼り出す。服従するしるしにお前の穿いてきたパンティを脱いで、紙袋にいれて十時までに待合室の椅子の上に置いておくこと。)
 非情な命令であった。
 腕時計を見ると、九時五十分を過ぎようとしている。美沙子の今日の勤務は十時から十二時までだった。相談しようにも里美は今日は休みである。が、たとえ里美が居たとしても本当に相談出来たかどうかは美沙子にも自信がなかった。
 とにかく美沙子は監視員の制服のワンピースの水着に着替えをすることにした。パンティを脚から抜き取ると、スカートの上にとりあえず置いた。今朝穿き替えてきたばかりだから、まだそんなに汚れてはいない筈だった。紙袋は美沙子のロッカーの中に一つ入っている。
 水着を着替え終ると服をロッカーにしまう。少しためらったが、ロッカーの下から紙袋を拾い上げると、背後を盗み見るようにしてパンティをそっと落しこんだ。そして紙袋ごと小さくたたみこんで、小脇に抱えた。
 水着の上にウィンドブレーカとジャージを羽織ると、(すぐ戻りますから)と言って控室を出た。
 待合室は細い廊下をまっすぐ歩いた先を曲がってすぐの所にある。美沙子は少し急いで走らない程度に早足で歩いていった。待合室には数人が居てくつろいでいる。美沙子は目を止める者はいなかった。
 (どうしよう。)
 美沙子は迷った。
 (ただの冗談ではないのか)そう思う気持ちと、もし万一あんな写真があちこちにバラ撒かれたらという恐怖感とが錯綜している。
 一旦誰もいないベンチに紙包みを置いた美沙子だったが、考え直して再び紙包みを手に取り直した。あたりをそっと伺うが、誰も美沙子のほうに注目している様子はない。
 時計を見上げると十時二分前である。慌てて控室に走って戻る。乱暴に控室のドアを開け、紙包みをロッカーにしまうとジャージと上着を脱ぎ捨てプールへの入り口に急いだ。他の連中はもうすでにプールサイドにスタンバイしていた。美沙子も何気なく加わっていった。
        
 その日の監視の仕事は、美沙子にとっては殆どうわの空であった。写真のことばかりが気に掛かっていた。約束の十時はとっくに過ぎている。手紙を送ってきた主は約束が果たされていないことをもう知っている筈だ。このプールのどこかに居て、今も美沙子のほうを見ているのかも知れない。そう思うと、水着姿ではあるものの裸の身を晒し物にさせられている気がした。何度もなんども注意してプール全体を見渡してみた。が、不審な人間は特に見当たらない。二階の待合室のガラス窓の向こうから覗いているのかも知れないと思い、時々伺うように見上げてみるが、見下ろしている人間は何人もいてよく分からない。それでなくても若い女子監視員を眺めに来ている男も多いと、いつか里美が話していたくらいである。美沙子も、よく監視をしながら男の視線を身体に感じることがあった。

 十二時になって勤務が終って控室に戻ると、朝手紙を渡してくれた浜野がまた手招きをしている。
 「また、ラブレターみたいだよ、ほら。」
 そう言って今朝と同じような封筒を美沙子に手渡した。
 誰からといいたげな美沙子の目を感じたかのように浜野が説明した。
 「入場口のところに落ちていたんだって。受付やってる浅野くんが拾ってもってきてくれたんだよ。」
 封筒には(早坂美沙子様。親展)となっている。浜野から封筒をひったくるように受け取るとロッカーから着替えを取り出し隅の更衣所のカーテンの奥に引き篭った。
 おそるおそる封筒を開くと、先ほどのとは又別の写真であった。今度はマジックも無く美沙子の顔がはっきりと写っている。朝の写真よりずっと、はしたない格好をしている。美沙子は絶望感に襲われ、顔が蒼ざめていった。
 震える手で写真を裏返すと、同じ様な金釘文字が這っている。
 (約束を守らなかった罰として、おまえのこの写真を男子トイレの中に貼り出すことにした。)
 美沙子は一瞬呆然となったが、すぐ我に返った。
 (急がねば、. . . )
 美沙子は大慌てで水着の上から再びジャージとウィンドブレーカだけ羽織ると控室を飛び出た。プールにはトイレが数箇所ある。一階のプール受付前と二階の待合室奥、そして一階の売店横、そしてあとは屋外。プール内にも水着のまま入れるトイレが男子用と女子用とある。
 美沙子は見当をつけて二階の待合室奥へ急いだ。そこは、人も少なくあまり使われる頻度は少ない。逆に他のところは頻繁過ぎて、何かしていると怪しまれやすい。

 二階の待合室はお昼どきのせいか閑散としていた。かなり高齢そうなお婆さんが二人談笑しているだけである。美沙子はまっすぐトイレのほうへ早足で進んだ。
 トイレの入り口は途中まで、男子女子とも一緒で、途中で二股に分かれている。その分かれ道で歩みを緩めるとそっと後ろのホールのほうを振り返る。先ほどのお婆さん二人は話に夢中でこちらには気を留めている様子もない。一気に男子トイレに美沙子は駆け込んだ。
 (中に誰もいませんように。. . . )
 美沙子は祈るような気持だった。もし誰かにみつかったら言い訳のしようもない。
 美沙子にとっては初めて入る男子トイレだった。見慣れない男性用便器が並んでいるのを見るだけで恥ずかしさが込みあげてくる。三つある個室を順番に見て回る。
 (無い、. . . 。無い、. . . 。)
 三番目の個室の扉を開けて、美沙子ははっと息を呑んだ。正面の壁に美沙子の写っているさっきと同じ写真がピンで留めてある。その写真に手を伸ばしかけたとき、背後で足音がした。
 (誰か来たんだわ。)
 とっさに美沙子は戸を閉めて鍵を掛けた。足音はやはりすぐ近くまでやってきた。美沙子は息を潜めてじっと窺った。その足音は隣の個室に入ったようだった。じっと息を殺して待つ美沙子の目に写真の裏に留めてある紙切れが目に入った。
 美沙子は音を立てないように、そっとピンを外した。紙はやはり手紙だった。
 (約束を守らなければ、いつでも写真をバラ撒くといった意味が分かった筈だ。これで約束を守る気になったか。今日はパンティを紙袋にいれて待合室のベンチに何気なく置いて帰れ。明日、午後四時この同じトイレの個室に来て待っていろ。)
 美沙子は隣の男が出ていくまでの長い、長い間、何度も命令を読み返しながら待っていた。

 美沙子は替えの下着は持ってきていなかったので、スカートの下は何も着けることが出来なかった。文字どおりのノーパンになって、来た時のワンピースになると、手に紙袋を持って控室を後にした。
 待合室は相変わらず、閑散としていた。ベンチに何食わぬ顔をして腰をおろす。手に持っていた紙袋をそっと横に置く。それから、自分のほうを誰も見ていないのを確認すると、そっと立ち上がった。そして、意を決して後ろを振り向かずに出口へ向かう階段のほうへ一気に早足で進んだ。


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