手摺り括りつけ

妄想小説

プール監視員



 その27

 片側の足首を繋がれ、両手は後ろ手に手錠を掛けられているので男にもう片方の足首を取られるのはどうあがいても時間の問題だった。男は輪にしたロープの端を里美の自由だった方の足首にも巻き付けてしまい、更にその端を梯子の反対側のパイプに括り付けてしまう。男の意図は明らかだった。パイプ梯子に磔にされてしまった里美の両膝を押し広げて股間の屹立したものを水の中で挿入しようというのだ。
 「や、やめてっ。そんな事・・・。」
 しかし両手は背中で繋がれ、両足までパイプで開かされてしまっている身では最早逃れようはないのだった。男が裸の里美の腰を抑える。そして引き寄せるようにして自分の股間を里美の無防備な下腹に押し当てようとする。
 「あ、いやっ・・・。」
 その瞬間だった。
 パシーンという音がプール館内に響いて室内の電源が落されたのだ。しかもそれに引き続いて常夜灯の明かりまでもが落され、館内は真っ暗闇になったのだった。

 「うっ、どうしたんだ。いったい何が起こったんだ。おい、約束が違うぞ。真っ暗じゃないか。」
 慌てふためいているのは、今にも里美を犯さんとしていたお客だけではなかった。
 「兄貴ィ。どうしたんですか。真っ暗じゃないですか。これじゃ、俺たちだって何も見えねえよ。」
 真っ暗闇になったところで一人冷静だったのは美沙子一人だった。あの男が直にやってくる。何故なら電源の場所を知っているからだ。手探りでもここへやってくるのは間違いない筈だと美沙子は思っていた。そして手にしている蛍光塗料のスプレーとスタンガンを握りしめる。

color spray

 カタン。
 物音に続いてカサコソと辺りを探っている気配がする。
 (今だわ。)
 プシューッという音と共に男の腕に蛍光塗料が塗りつけられる。
 「誰だ。誰か居るのか?」
 しかし男の声はそれまでだった。美沙子がもう片方の手に握りしめていたスタンガンが蛍光塗料で浮かび上がっている手首に押し当てられたからだ。
 「うぎゃあああ・・・。」
 男が倒れたのを気配で感じ取った美沙子は里美を救いに階下へ走る。途中、何やら蠢いている物音を聞いた美沙子は一旦立止って気配を感じ取る。
 プシューッ。
 「誰だ? あぎゃああああ・・・。」
 もう一人が蛍光塗料を塗りつけられ直後にスタンガンを当てられて気絶する。
 「だ、誰なんだ。何処にいる。」
 何も見えないもう一人が闇雲に腕を振り回している。
 プシューッ。
 「や、やめろっ。何をするっ。」
 バチバチバチッ。
 「うぎゃああああ・・・。」
 最後の一人は、里美と共にプールにまだ居る筈だった。

 美沙子がプールに駆け付けた時、既に里美に対する凌辱ゲームは始まっていた。二階まで忍び足で上った美沙子は市長の息子だというサングラスの男がプールを見下ろす見物席のガラス窓越しに階下の男と里美の様子に見入っているのが見えた。
 (今のうちだわ。)
 そう思った美沙子は急いで、しかし足音は立てずに三階に這い上がる。思った通り、ビデオ監視室と電源室は両方とも扉が開けたままになっている。ビデオ監視室で様子を覗ってタイミングを見計らって館内の照明を落としたり入れたりしていたようだった。最初はビデオ監視室でモニタ画面で見張っていたのだろう。そのうち直接見てみたくなって二階ホールの見学窓まで降りて来ていたのに違いなかった。
 モニタを確認すると、裸に剥かれた里美が梯子手摺りに括り付けられようとしているのが見えた。
 (急がねば。)
 美沙子は手にしていた大量の発煙筒に火を付けてビデオ監視室のあちこちにばら撒くと、隣の電源室に走ってジャックナイフスイッチを使って常夜灯ごと館内の明かりを全て消し去ったのだった。


 里美の手錠を外して縄を解いていると、突然館内の明かりが灯った。すぐ傍にさきほどスタンガンを喰らわせた覆面姿の男が勃起した局部を露わにしたまま気絶していた。
 (あの男、電源室に戻ったんだわ。)
 美沙子は慌てて二階へ駆け戻る。三階へあがる階段からはもうもうと煙が噴き出てきている。その煙に目を擦りながら市長の息子という男が降りてきた。
 「お前だな。よくもやってくれやがったな。」
 「もう逃げようはないわ。すぐに管理人たちが警察を連れてこっちへやってくるわ。あなたのパソコンのデータもビデオテープも既にコピー済よ。」
 「畜生、お前。お前だけでも道連れにしてやる。」
 男はやけになって美沙子に飛びかかってきた。咄嗟にスタンガンを向けようとしたが、それを振り払われてしまう。
 「あ、しまった。」
 「ふん、スタンガンか。よくもやってくれたな。今度はこっちがそれをお前に当ててやる。」
 そう言って美沙子の取り落としたスタンガンを拾い上げようとした時だった。その男の肩を強烈な回し蹴りが襲った。
 「あううっ・・・。」
 「観念しな。今度は私が相手だよ。」
 美沙子が顔を上げると、何時の間にか男の前にまだ全裸状態の里美が立ちはだかっていた。男が体勢を立て直そうとする前に里美の再度の回し蹴りが男の顔面に炸裂すると、それがトドメとなって男は崩れ落ちたのだった。

 その公営プールが再開になったのはそれから数カ月後の事だった。美沙子が回収した自分自身のと里美の凌辱シーンが収められたビデオテープ以外は警察の手によって証拠品として回収された。容疑の決め手になったのは美沙子があらかじめコピーを取っておいた市長の息子とお客たちの凌辱ゲームと金の遣り取りに関するメールのデータだった。逮捕された市長の息子に続いて市長自身も収賄の容疑で逮捕状が取られたとの事だった。
 美沙子が回収したビデオテープはそれぞれの手に戻ったがお互いその中身は見ないことにしようと言って二人で焼却機に放り投げたのだった。
 一旦はアルバイトの監視員に戻った二人だったが、卒業近い二人にはその日の監視員の仕事が最後になったのだった。

 完

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