妄想小説
プール監視員
その22
忍び込むのは色々検討した上で、男がプールに来場した日の午後を狙うことにした。男がプールに泳ぎに来る日は、その前と後とで謎の部屋に立ち寄ることは確認済みだった。となると、一旦部屋に入った日の午後は再度訪れることはまず無い筈だった。夜間に忍び込む事も考えたが男がメインにその部屋を使うのは人が来ない夜間であるのはほぼ間違いなかった。それで夜はわざと避けて真昼間を狙うことにしたのだった。
二階の待合室で見学コーナーからプールを観察する振りをしながら男が2000m泳ぐ前と後とで二階秘密の部屋を訪れるのを確認した上で、午後に再度プールに戻ってきてプールが開場されるのを待つ。午後の部が始まってしまえば二階の待合室もほぼひと気がなくなるからだ。
待合室に誰も居なくなるのを見計らってから細心の注意を払って三階にあがる。震える手で鍵穴に合鍵を挿すと、あっけなく扉はするりと開いた。中は明かりは点いていないが何台ものテレビモニタが点けっ放しになっているので最早明かりは不要だった。
美沙子がちらっと一瞬だけ観たモニタを近くに寄って確認してみる。間違いなく監視員控え室だった。この部屋はプール施設内にあるあらゆる防犯監視カメラの確認ルームなのだった。別の机の上には監視ルームに置いてあるのと全く同じ型のマイクが置かれていて、こちらからでも館内放送が出来るのは確かめなくてもすぐに分かった。更にその横にミキサー装置のようなスライド式のスイッチがいっぱい並んだ操作盤がある。そのうちの一つを上げてみると館内の音がスピーカーから聞こえてくるのが判る。幾つも並んだスイッチの中に監視員控え室というのがあった。それをおそるおそる上げてみる。聞こえてきたのは聞きなれた同僚の草野と平井の声だった。
(こ、これは・・・。)
間違いなく盗聴器が監視員室に仕掛けられているのが判る。自分と里美の会話も聴かれていたに違いないと思うと、思わず手に汗が浮かんでくるのがわかる。
美沙子が辺りを見回してみるとキャビネットが壁際にあり、中にビデオテープらしきものが幾つか入っているのが判る。ラベルに(M・H)とか(S・K)というのが目についた。傍に日付らしき数字の羅列もある。
(20XX.XX.XX、これって私が凌辱を受けた日じゃない。そして20YY.YY.YY、私が拉致されて里美に助けられた日・・・。ミサコ・・・、ハヤサカ・・・。サトミ・・・、クマガイ・・・。これって、私と里美だわ。やっぱりあの時、里美も何かされたんだわ。)
段々心臓の鼓動が早くなっていくのを抑えきれない。
(何か、証拠が必要だわ。)
美沙子が見回すとモニタ画面の一番脇に電気が入れっ放しのパソコンがある。誰かに宛てたメールのドラフトのようなものが途中まで打ち込んである。
(XXXX様。御所望のターゲットがご用意できそうです。XX日、深夜の何時もの時間で宜しければその旨ご返事ください。振込先は、)
そこで途切れていた。
美沙子は自分がそこに居た痕が何も残っていないことを何度も確かめたところで一旦部屋を出ることにしたのだった。駆け付ける先はパソコンの操作に詳しいクラスメートのKのところだった。
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