プール監視

妄想小説

プール監視員



 その2

 プールサイドに出ると、美沙子はまっすぐ真正面中央のデッキスタンドに向かった。もう一人の大学生の平井が座って監視をしているところだった。里美はと見ると、ちょうどプールを隔てて反対側をゆっくり歩いて監視をしているところだった。美沙子が軽く目で合図すると、里美は手を振って返した。
    
 「先輩、遅れて申し訳ありませんでした。済みません、替わります。」
 「おっ、来たな。この貸しは高くつくぞ、みさちゃん。」
 平井は笑いながらデッキスタンドを降りて、美沙子に席を明け渡した。美沙子がスタンドに上がろうとしている時、擦れ違い様に美沙子の白い太腿に平井の手が触れた。わざとでは無かったように思ったが、裸の肌に裸の手で触られたように感じて、美沙子はドキっとした。
 「じゃ、まかしたぞ。」
 何事も無かったように平井は控室に向かって歩いて行く。
      
 プールは相変わらず二十人ばかりがゆったりと泳ぎを続けている。心無しか年寄りの姿が多いようだ。中年過ぎのおばさん軍団も多い。若いのは、美沙子等監視員だけのような気もする。実際には数人は若そうなものもいるのだが。
 里美がちょうど向こう側の角を曲がって、ゆっくりこちらへ向かって近づいてくる。プール監視員の独特の指差しチェックの動作をしながら前向き、後ろ向きを繰り返しながら歩いてくる。視線は絶えずプールの隅々をくまなく見渡している。
 実際には、気はうわの空で何も見るようでいて見ていないことも多い。美沙子も何度も経験しているのでよく分かる。今の里美はまさしくうわの空で歩いているという感じがした。
     
 次第に里美が近づいてくる。すらりと伸びた脚が刺激的だ。女子監視員のコスチュームは、近隣の公営プールの中でも群を抜いてハイレグだ。美沙子は里美の脚が目にはいるとついつい、その付け根の部分に視線が釘付けになってしまうのに当惑した。
 何だか、里美と目を合わせるのが恥ずかしく、何気なく視線をそらしていた。
 気付くと里美がすぐ下にいてスタンドの下を抜けて行くところだった。サンバイザの下に顔が隠れて表情が見えない。
 「美沙子、どうしたの。遅かったじゃない。」
 「ううん、. . . 。ちょっと、学校でね。」
 「替わってくれた平井君によくお礼いっといたほうがいいわよ。彼、三回連続で出ていたんだから。」
 「うん、そうする。. . . あの、里美、. . . 。」
 「なに、. . . 」
 美沙子は一瞬、自分が何を口にしようとしていたのか訳が分からなくなった。
 「いいえ、何でもないの。また、後で。」
 里美は再びゆっくりと後づさりの格好でプールの端のほうへ歩いていく。美沙子はプールのほうだけに注意を集中するようにした。その時、休憩時間を告げるチャイムが放送で流れてきた。
 「水難事故防止の為、十分間の休憩時間となります。監視員の笛の合図ですみやかにプールから上がってください。ご協力お願いいたします。」
 三十分毎に流れるいつものアナウンスが聞こえ、美沙子は笛を口にした。
    

 あの日、何度も美沙子は里美に聞こうとしたのだった。が、喉まで出かけたところでどうしても口にすることは出来なかった。だからかも知れないが、あのことが美沙子の頭にこびりついて離れなかった。目をつぶるとあの光景がすぐに浮かんできてしまうのだ。
 気がついた時はもうプール場の前に来ていた。
 今日はプールは休みの日である。だから、誰もいない筈だ。ゆうべ、美沙子はプールが引ける時、わざと最後に出たのだった。監視員は最後の退場時間が過ぎると、掃除をして戸締りをして帰ることになっている。ゆうべは着替えるのに手間取った振りをして、自分が鍵を掛けるからと言って、先に他の監視員等を帰らせたのだった。昨日は里美も休みの日だったので、美沙子は一人で帰ることにしていた。
 そして、最後に鍵を掛けた時、いつもは事務所のポストに鍵を投げいれて帰ることになっているのだが、そっとポケットに鍵を忍ばせたのだった。

 月曜の昼過ぎ。ごみ焼却場の裏手に為っている公営プールは人影もなかった。美沙子はそっと滑り込むように鍵を開けると、プールの両開きのガラス扉から中に入った。
 明りは勿論ついていなくて、薄暗かったが、まだ昼間なので明りをつけなければ何も見えないという程ではない。誰もいない筈ではあったが、そっと音を立てないように忍び足で二階の監視員控室へ向かう。
 キーッという、誰も聞いている者はいない筈なのだが、美沙子をひやっとさせるような音を立てて監視員控室のドアは開いた。美沙子は嘗てから見当はつけておいた里美の個人用ロッカーをそっと開けて見た。が、期待に反してロッカーの中には殆ど何も無く、監視員の制服であるハイレグの紺の水着とサンバイザーがハンガーに掛かっている他は、ティッシュペーパーが一箱置いてあるだけである。美沙子は拍子抜けしてしまった。自分が何だか恥ずかしい妄想をしていたような気がして恥ずかしくなってしまった。
 その時、急にくしゃみが出そうになり美沙子はティッシュの箱に手を伸ばした。
 が、その手にカチンと硬いものが触って美沙子は驚いた。くしゃみが出そうになっていたのも忘れてその硬いものをティッシュの箱の中で握りしめた。ゆっくり引き上げた美沙子の手に握られていたのは黒光りする電動コケシであった。

 そこから先のことは、美沙子にも後からは、はっきり思い出せないのだった。ふと、気付いた時には、美沙子が見た里美と全く同じ格好で、椅子の上にそっくり返り、机の上に両脚を大きく広げて載せ、脚の付け根のぱっくり開いた穴に向かって黒光りするコケシを突き立てていたのだった。
 パンティの上からなぞるだけで、背筋をぞくっという衝撃的な感覚が走った。が、ためらいがちにも、それを続けているうちに、次第にそれが快感に変わっていくのを美沙子は無意識のうちに否定出来なくなっていた。そして次には、下着を通じてではなくその感触を試してみたくてたまらなくなった。
 美沙子は一旦振り返り、誰もいないに決まっている建物の中を控室のドア越しにもう一度確かめると、ゆっくり腰を浮かし、パンティを膝まで下げていった。
 今朝、替えたばかりの真っ白のパンティは、美沙子の膝の少し上の所で大きく広げられた。そして、その裏側の大事な部分に当たっていた二重になった布地には、もはや隠しようもない程のべっとり濡れた染みがついている。
 美沙子は、ポシェットから小さなハンケチを取り出すと、その黒光りする塊の先を丹念に拭った。
 最初は白いブラウスに包まれた胸の膨らみの下へその先を突き立てた。見ることがこわく、上向き加減に宙を見ながら、手探りでその先を自分の身体に押し付けながら、ゆっくりと下げていった。その先に籠められた力はまるで自分のものではないかのように思われた。そしてその先がへそのあたりを過ぎ、スカートのベルトを乗り越え、たくし上げられたスカートの奥の腹に、そしてその下の草むらに達した。
 その硬い塊が秘密の唇に触れた時に、冷たい異物感にどきっとしたが、もはや指の動きを止めることは、自分の理性では出来なくなっていた。
 美沙子は、その太い塊を受け入れる為に、更に一層大きく脚を開いた。パンティが邪魔になって、片脚だけ抜き取った。美沙子には自分がどんなあられもない格好になっているかの意識もなかった。指の力が籠められ、その太い塊は美沙子の秘部に埋め込まれていく。そして、その先のくびれがクリトリスの裏側のひだをこすると、たまらず(ううっ~)という声を挙げてしまった。美沙子は自分のうめき声が誰もいないしーんとした控室に響くのを他人事のように聞いていた。

 帰り道の美沙子は何だか、悪いことをして叱られた後の生徒のような罪悪感を感じて、うつむき加減でしか歩けなかった。が、身体の奥底の熱くたぎるような興奮はまだ抜け切ってはいなかった。
 何度も、何度も美沙子は後始末をちゃんとしてきたか、不安になった。
 あの行為を終らせたのは、プールの自動時計が突然三時を告げたからで、三十分近くも自慰に耽っていたことに気付き、愕然とする間もなく、慌てて片付けてきたのだった。
 コケシはハンケチで丁寧に拭って、細心の注意を払ってそっと元の場所に戻したつもりであるが、何かし残したような気がしてならない。
 あの控室には自分の身体の粘液の匂いが充満しているような気がして、窓を開けて空気を入れ替えたかったのだが、誰もいない筈の窓が開いて、もし誰かに見られたらと思うとそれも出来なかったのだ。
 濡れていた下着はもう乾いていたが、染みの痕だけはくっきり残っていた。あそこを自分で持ってきていたポケットティッシュで拭ってからパンティを穿いたが、、すぐに又濡れてくるのが分かった。
 プール前のバス停からバスで帰ろうと思っていた。バス停に向かってゆっくりあるいていると、雨避けになっている小さなバス待合所のベンチに、既に中年の太ったおじさんが座っているのが見えた。黒いサングラスをしていて視線は見えない。が、何となく覗かれているような気がしてならない。それも、美沙子のスカートの下を透視されているような気がした。その日は白いスカートを穿いていたので、下着が透けているのではないかと思ったほどだ。が、いつも穿き慣れている鏡の前でも何度も確かめているので、そんな筈は無かった。
 美沙子はスカートの股の部分に染みでも付いていないか不安で見てみたかったが、却って変に思われるような気がして、それも出来なかった。その中年を無視して、バス待合所の隅に立っていようとした時、突然声を掛けられた。
 「お嬢さん、そこが濡れていますよ。」
 美沙子は背中からバケツで水を掛けられたような気がした。恥ずかしさに耳タブが真っ赤になってゆくのが分かった。思わずポシェットを持った両手でスカートの上から股間のあたりを隠すようにして押さえた。
 が、恥ずかしさに下を向いた時、中年が注意したのは、自分の股間ではなく、足元の水溜まりであったことに気付いた。美沙子は更に一層恥ずかしくなった。半分足を踏みいれていた水溜まりから飛び退くように横に避けると、ちょっと水が跳ねて中年の足もとのズボンに飛んだ。
 「あっ、す、済みませんでした。」
 慌てている美沙子に中年は(いいよ、いいよ。)と風に手を振った。
 美沙子はそれ以上、声も上げられずに隅のほうで下を向いて立って、唯バスを待っているしかなかった。その背中に時々、中年の視線を嫌というほど感じていた。


  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る