美沙子凌辱後

妄想小説

プール監視員



 その15

 その夜はもうどうやって家に帰ったのかもはっきりと思い出せない美沙子だった。時間切れで果たせなかった男が去って行き、代わりに誰かがやってきたのに違いなかった。その男に背中の手錠の鍵を外して貰ったのだろうが、どんな男が現れてどうやって自由を取り戻したのかも思い出せなかった。
 口の中は家に帰ってから何度口を濯いでも汚濁感が拭えなかった。それでも幸いなことにあの部分だけは蹂躙されなかったのがせめてもの救いだった。ただ、そのせいかあそこが物足りなさに疼くような気がして手で慰めたいのを抑えることが出来なかった。
 美沙子は里美にあの部分を舐めさせたことを思い返してもいた。自分の為にあんな目に遭った里美に、少しでも恩返しにとしたい事をさせたのだったが、申し訳ない気持ちばかりが先に立って気持ちいいとまでは思えなかった。もしかしたら里美のほうこそ舐めて貰いたかったのではとも思ったのだが、自分からは言い出せなかったのだ。
 美沙子は突然の里美の告白に戸惑ってはいた。自分からそういう関係になりたいとは思わなかったが、自分を助けてくれた里美にはどんな事でも身を任せてもいいという気持ちにはなっていたのだ。里美が自分の身体を求めていたなどとは思ってもみなかったので複雑な気持なのだった。
 美沙子はまた金を払って自分を襲ったという男の事も思い返していた。確か(いつも身体を見てあそこが疼いていた)というような事を口走っていた。となると、プールへ通ってくる男の中の一人としか考えられなかった。自分のハイレグの水着姿を眺めながら、そんな邪まな思いに耽っている男が居たのかと思うと思わず身の毛がよだつ思いがした。しかし冷静に考えれば監視員のハイレグの水着制服は男の気持ちを妖しくさせないとはいえないような格好ではあった。知らず知らずのうちに男の欲情を掻きたてていたのかもしれないと美沙子はこれまた複雑な心境になるのであった。

 翌日の監視員のバイトも里美は休むことになった。次第に手の傷は癒えてきているとはいえ、手の甲だけでなく身体のあちこちに残っている痣の痕は、ハイレグの露出度の高い水着を着るにはまだ憚られたのだ。男性の監視員たちに何があったのか訊かれるのも億劫だったのだろう。里美がシフトに入れない分、美沙子は悪夢のような凌辱を受けた後でもバイトを休む訳にはゆかなかった。美沙子自身、里美の分をカバーしなくてはという気持ちもあったのだ。
 それでも監視員の制服であるハイレグ水着になってプールサイドを歩くのは以前とは違って周りの目が、それも特に男性客の目が気になって仕方なかった。誰もが自分の股間を覗き見ているような気がしてならないのだ。実際、自分を犯した輩がその中に何食わぬ顔をしてまたやって来ていないとは限らないのだ。誰の目を見ても、あの自分を犯した男と同じ目で自分の身体を舐めまわすように見ているように思えてならなかった。
 「美沙子ちゃん、今日も里美はバイト来ないみたいだね。」
 「ううん、何かこの間滑って打ったっていう頭の方が気になっているみたい。私も大事にしておいたほうがいいよって言っているの。ああ、でもその分私がシフト多目で頑張るから。」
 「そうかい? 助かるよ。じゃあ。」
 そんな会話は既に日常茶飯事になっていた。

 「ねえ、あれから大丈夫? 何かまた呼出しとか受けてない?」
 里美はプールに現れる代わりにしょっちゅう美沙子に電話してくるようになった。勿論、美沙子の身の安全を気にしてのことだ。さすがにあの夜の事は里美には教えられなかった。何事もなかったかのように答えておくしかなかったのだ。
 「大丈夫よ。もし何か呼出しみたいのがあったら、里美にすぐ連絡するって約束したじゃない。」
 「そ、そうよね。きっとよ。きっと、連絡してね。」
 「分ってるって。じゃ、そろそろ次のシフトの準備しなくちゃ。それじゃ。またね、里美。」
 そう言って電話を切った美沙子だったが、後ろめたさは拭えない。本当は、何もかも里美に話すことが出来ればずっと気は楽なのにと思うのだが、今の里美にはこれ以上は迷惑は掛けられないとも思い直すのだった。

 「え、じゃもう辞めちゃったの? 大丈夫かな、女子のシフトの方は。だって、まだ里美だって出て来れないんだろ。」
 「そうなんだよ。何せ、早苗のやつ。急に言い出すもんだからさ。訳を訊いても理由は有りませんの一点張りでさ。」
 「ふうん。何かよっぽど嫌なことでもあったのかな。誰か男の客がセクハラまがいの事したとか。」
 「え、まさかあ。幾ら何でもプールの中じゃ人目も多いし、やたらな事は出来ないんじゃない?」
 シフトに出ようとする美沙子の後ろで控えの男子監視員たちが立話しているのが聞こえてしまった。話に出てきた早苗というのは見知ってはいたが、殆ど話はしたことがなかった。もっともそれは美沙子の方が晩生で話下手なせいなのではあったが。スタイルがよくてすらっとして脚も長く、男子監視員の間でも好感が持たれていたほうだ。
 (突然辞めた・・・)その言葉に美沙子は何か引っ掛かるものを感じていた。

 その事が気になって、上の空になっていたのかもしれなかった。いつものようにプールサイドを監視しながら見廻っていた時、突然誰かの手が太腿に触れたのだった。
 「あ、ごめんなさい。失礼。」
 そう謝ってきたのは中年の男性のようだった。
 「あ、わたしこそ。ちょっとぼーっとして歩いていたみたいで。」
 お互い不注意でプールサイドを歩いていたのに違いないと最初は思った。しかし、謝ってきた声に何か聞き覚えがあるような気がしたのだ。
 美沙子は遠ざかっていく男の背中を振り返ってみるが、まったく見知らぬ男性のようだった。
 (変ね。ま、まさか・・・。)
 何かもやもやとしたものが美沙子の胸中に湧き上がってくるような気がして気持ち悪い思いをしたのだった。

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