妄想小説
プール監視員
その20
美沙子が監視員控え室に入って行った時、ちょうど入れ替えで里美が次のシフトでプールへ向かうところだった。
「あ、美沙子っ。」
「あら、里美。この頃、なかなか一緒のシフトになれないわね。」
「仕方ないわよ。辞めた人の代りに一気に新人が二人入ったんだもの。新人ばっかりになっちゃう訳にはいかないものね。」
「そうよね・・・。」
このところ、里美とはじっくり話す時間も採れていない美沙子はいろんな事を里美と相談したいのだが、それもままならないのだった。
「じゃ、また後でね。美沙子。」
「ええ、また。」
里美と挨拶だけ交して控え室に入った美沙子は、入るなに何かが気になってふと立ち止まる。
(え、何だろう。この既視感・・・?)
何となく胸騒ぎのようなもやもやしたものを憶えた美沙子は空いていたパイプ椅子に一旦腰を下ろしたが突然立ち上がる。
「あっ・・・。」
「どうしたの、美沙子ちゃん? 突然大声出したりして。」
「あ、いや・・・。なんでもないの。」
そう言って再び椅子に座り直し、部屋の様子をぐるっと見まわしてみて戦慄を覚えたのだった。
(あの青と赤の目立つタオル・・・。そしてその真正面の・・・。)
「ああ、平井のやつ。またそこに自分のタオル、干していきやがった。タオル干す時は乾燥室に置けって言ってるのに。すぐにそこに置きっぱなしにするんだから。」
美沙子が窓際にハンガーに掛けて干してある目立つ色柄のタオルを見つめているのに気づいて草野がそう声を掛けた。しかし美沙子が見つめ直した反対側の方には気づいていない。その反対側は監視員控え室入口のすぐ脇の天井際にあった。防犯カメラである。
監視員控え室は着替えもする場所なので、勿論防犯カメラは着替え用のカーテンのあるコーナーには向いていない。外からの侵入を監視する為らしく入口の扉から窓側に向けて設置してあるのだ。その窓の直ぐ脇に干してある特徴ある赤と青の目立つタオル。それを何処で観たのか、美沙子はもう思い出していた。
(あの部屋・・・。何としてでもあそこに忍び込んでみなくちゃ。)
美沙子は密かに決心していた。
「さあ、約束通り来たわよ。今度はどうしようってつもり?」
「誰にも言わずに一人で来たんだな?」
「そうよ。あなたもこの間みたいに美沙子を人質に取るなんて卑怯な真似、してないわよね。もし二度とそんな事したら、全部警察に話すわよ。」
「ふふふ、まあ、待て。そんな手荒な真似をいつまで使う訳がないだろ。」
「だったら確認させて貰うわよ。今から美沙子に電話するわ。」
「ああ、いいだろ。好きなだけ確認するがいいさ。」
ツー・ツー・ツー。ルルルルル。
「あ、美沙子。あなた、大丈夫。何かされてない?」
「・・・・。」
「あ、そう。ならいいんだけど。ねえ。お母さん、今そばに居る?」
「・・・・。」
「あ、じゃあちょっと出して。・・・。そう。あ、美沙子ちゃんのお母様? この間はごめんなさい。急にウチに泊めちゃったりして。美沙子に家に電話しなさいって言ったんですけど、美沙子がいいっていうものですから・・・。ああ、そうです。・・・。はい、また。じゃあ。・・・・。あ、美沙子。あなたが無事だってわかったから安心したわ。・・・・。ええ、そう。じゃ、また明日ね。・・・。」
「どうだ、無事が確認出来たか?」
「ええ、今度は卑怯な手は使ってないようね。」
「ああ、勿論だとも。そんな事しなくったって、もうお前は俺たちの言う事を聞くしかないんだからな。」
「何ですって? どうして貴方達の言うことを私が聞かなくちゃならないっていうの?」
「これを見ればわかるさ。」
里美の目の前にはこの間と同じく大型のモニタが置かれている。それが今しも遠隔操作でスイッチが入れられたらしかった。
しだいにはっきりしてくる映像に里美は目を丸くする。
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