チェロキー追尾

監禁妻への折檻



 七十四

 パワーでは負けないものの、滑りやすい山の砂利道では後輪駆動のスカGは圧倒的に不利で、コーナーを廻る度に大きく後輪を横に滑らせて道から外れ掛かるのを何とか立て直して先を急ぐ琢也だったが、二台の車の距離はコーナーを廻る度にどんどん詰まっていた。
 「ね、その先。急カーブなの。カーブの向こうは崖よ。気をつけてっ。」
 倫子の言葉が耳に入るや、琢也は覚悟を決めた。
 「倫子、掴まっててっ。」
 まだカーブのかなり手前だったが、琢也はアクセルを全開にすると同時にハンドルを大きく左に切る。その途端にスカGは後輪から大きくスリップし始め車ごと大きく回転しながら崖に近づいて行く。琢也は必死でカウンターステアを当てながらアクセルを調整する。
 ドーン。ガターン。
 大きな音が背後で聞こえたの確認しながら、道幅ぎりぎりを滑り降りていっていたスカGの体制を何とか立て直し、琢也は車を停める。
 「何? 何だったの?」
 「ああ。多分、数馬の車は四輪駆動だからタイトコーナリングブレーキが掛かってカーブを曲がり切れなかったんだろう。」
 琢也にとってもそれは予測出来た出来事ではなかった。ほんの少しだけ自分に運があっただけなのだと思っていたのだった。車が止まってすぐに倫子が琢也の上にしがみついてきた。その身体は小刻みにずっと震えているのだった。

倫子

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る