監禁妻への折檻
七十
(あとは玄関まで一気に走るのだ。)
そう思って玄関の方をみたちょうどその時、数馬の黒い影が玄関扉から入ってくるのが見えたのだ。一瞬、倫子は手にしていたポシェットを壁際に放り投げる。
「倫子か? 倫子・・・なんだな。」
数馬の黒い影がじわりじわりと近づいてきていた。
「あ、あの・・・。わ、わたし・・・。」
一気に走り出して数馬の横をすり抜けようとした。が、二の腕を数馬のがっしりとした手が捉えて離さなかった。
「倫子っ。どこへ行くつもりなんだ。俺がせっかく来たっていうのに。」
「あ、あの・・・。」
「お前、ここで何してたんだ? ん?」
「いえっ。な、何も・・・。」
「そうか。見たんだな、地下室を。」
倫子は何と答えていいかわからず、ただ闇雲に首を横に振る。しかし恐怖に怯えるその目は数馬にはすぐに理解出来た。
「そうか。ならしようがない。さ、一緒に来るんだ。」
数馬の手が強い力で倫子を引っ張る。その腕の力には到底敵いそうもなかった。半分引き摺られるようにして倫子は奥の方へと牽かれていくのだった。やっとのことで駆け上った階段を再び無理やり降りるように強いられ、倫子はまた薄暗い地下室に引き戻されてしまったのだった。
「忠男っ。あ、忠男かっ。緊急事態だ。すぐに蓼科に来てくれ。・・・・。ああ、そうだ。・・・。そう、数馬と倫子の居る山荘だ。そこで待ってる。大至急、来てくれっ。」
倫子からの電話が途中で切れてしまったので、急を要していることはすぐに理解出来た琢也だった。蓼科からはまだそれほど遠くまで来ていなかった琢也はすぐさまオートバイをUターンさせて蓼科の方へ舞い戻ることにしたのだった。
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