数馬

監禁妻への折檻



 六十五

 「お前、何か俺に隠してないか?」
 少し遅れて階下に降りてきた倫子に数馬が訊ねる。
 「え、な、何を・・・隠してるって言うの?」
 数馬が何か嗅ぎ付けたのではないかと内心不安になりながらも平静を装って知らぬ振りをする。
 「そこにあるオールド・パーはどうしたんだ?」
 「あっ、そ、それは・・・。さっき、三河屋の俊ちゃんが届けてくれたのよ。ほらっ、この間俊ちゃんが来て家で呑んだ時、貴方が三河屋まで買いに出てくれたでしょ。それで申し訳ないから新しいのを買って持ってきてくれたんですって。」
 「ふうん・・・。あいつが、ね。・・・・。な、お前。風呂に入ろうとしてたって言ってたよな。だが、浴槽には湯がまだ張ってなかったぜ。」
 「えっ? そ、それは先に服を脱いでから浴室に行こうとしてたからよ。」
 「裸で湯を汲む・・・? やっぱりお前、何か隠してるなっ。」
 「そ、そんな事、ないわよ・・・。」
 「だったら調べてやるっ。お前、そこで服を脱いでみろ。全部だ。」
 「え、服の下に何か隠してるって言うの? 何も隠してないわ。」
 「いいから、裸になってみろっ。」
 言い出したら聞かない数馬のことをよく分かっている倫子は諦めて服を脱いでいく。全裸になった倫子の傍に寄ってきた数馬は何時の間に取り出したのか手錠を用意していた。
 「さ、手を後ろに回すんだ。」
 「え、手錠を掛けるの?」
 「そうだ。そしたら二階のゲストルームに上がるんだ。」
 裸の上に後ろ手に拘束された倫子は数馬に肩を押されるまま二階への階段を上がり、誰も居ないゲストルームへと導かれる。
 「こんなところへ連れてきて、どうしようって言うの?」
 「お前の寝室をちょっと調べてくる。その間、そこのベランダに出ているんだ。」
 数馬はゲストルームからフレンチ窓を通って外に出れる外のベランダへ出ろと言うのだった。
 「だって裸なのよ、私。それに手錠を掛けられて、前を隠すことも出来ないのよ。」
 「こんな山の中に誰も来る訳ないんだから安心しろ。ちょっとの間、そとで頭を冷やしてるんだな。その方が反省も出来るだろう。」
 有無を言わさず裸の倫子をベランダの外に押し出すと、フレンチ窓の鍵を中から掛けてしまう。
 「やめてっ、貴方。こんな格好で部屋の外に出すなんて。お願いよ、私を中に入れてっ。」

全裸ベランダ追い出し

 倫子の悲痛な叫び声は外に潜んでいた琢也にも聞こえてきていた。時折ちらっ、ちらっと見える白い肌が、倫子が裸でベランダに追い出されたことを伺わせていた。最初は蹲って身体を隠していた様子だったが、いつまでも部屋に入る扉が開けて貰えないことが分かってからは何とか逃げる手立てはないかとベランダの柵の回りを身を乗り出して探し始めて、琢也は倫子が後ろ手に手錠まで掛けられていることを知る。
 (何てことをしてるんだ・・・。)
 すぐに助けに行きたい琢也だったが、今姿を見せてしまう訳にはゆかないとも思うのだった。近くの手近な樹によじ登ってみると倫子がベランダから逃れる術はないことを悟ったらしく、全裸に後ろ手錠の姿で蹲っている背中が見えた。声を掛けたい気持ちはやまやまだったが、数馬にここで気づかれるのは得策ではないと思い、せめて倫子が部屋の中に引き入れられるまでは見届けようと決意した琢也だった。

倫子

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