ベランダ追い出し

監禁妻への折檻



 六十六

 ベランダに出された倫子は琢也が無事に逃げおおせたかどうかと、自分が寝室などに何か気づかれるようなものを残してなかったかをずっと考えていた。プリペイドの携帯電話機は咄嗟に思いついて隠している間はないと思ったので何も考えずに窓から外に放り投げたのだった。結果としては最善の策だったと思われた。見つかっては困るものとしては後は俊介に作らせた合鍵の束があったが、それは念の為と思って琢也から託された電話番号のメモと一緒に再び庭先の地面の中に壜に詰めて再度埋めておいたのが功を奏していた。
 (外からは何の物音も聞こえなかったところを見ると琢也は無事に脱出出来たのだわ。)
 それだけが倫子にとって救いだった。
 散々家探しをしたらしい数馬が倫子の元へ戻ってきたのはベランダに閉じ込められてから小一時間が経った後だった。
 「ほんとうに何も隠してないんだな。」
 フレンチ窓が開いて家の中に招じ入れられた後も後ろ手の手錠はなかなか外して貰えなかった。自分の寝室へ連れて来られてベッドに俯せにさせられると、その上に数馬は馬乗りになって手にした物差し定規で無防備な倫子の裸の尻を打ち据えながら倫子に問い質していた。
 数馬は風呂の湯も汲んでいないのに、先に裸になって階下に居たというのを一番疑っている様子だったが、絶対にあり得ないこととも言えないのでそれ以上は追及出来ないでいた。倫子の方も咄嗟に吐いた嘘だっただけに無理があるのは承知で、赦して貰えるまで尻を理不尽に打たれるのも我慢して(本当なのです)と言い続けるしかなかったのだった。
 「急に忠男の奴が一緒に呑みたいなんて言い出して、何となく変な気がしたんだ。今日は偶々勤務を交代して貰ったんで、忠男と呑みに行こうかと思ったんだが虫の報せというやつで戻ってみたんだ。俺が帰って来ないと思って、変な事考えるなよ。明日は交代して貰った勤務があるからもう一度出掛けなけりゃならないが、何時でも戻ってくる可能性があるんだからな。」
 「わ、わたしは何も貴方に疚しいようなことなんかしてません。何時帰って来られても私は困りません。だからもう疑いは晴らしてこの手錠は外してくださいな。」
 数馬はチッと舌打ちをすると、仕方ないとばかりに倫子の背中の手錠を外すのだった。

 倫子が家の中に連れ込まれたのを確認して暫くしてもう出て来る様子はないのを見計らってから琢也は登った樹から降りる。山荘から少し離れたところに隠して停めておいたバイクの元まで戻ると電源を切っておいた携帯に電源を入れる。すると忠男からの着信が幾つも入っていた。メールもあったので確認してみると危機を告げる報せが入っていたのだった。
 <琢也へ 数馬にすっぽかされてしまった 蓼科へ戻った可能性が高い 無理はするな>
 バイブレータの音も心配だったので電源を切っていたので着信には気づけなかったのだが危ないところだった。心配しているだろう忠男の元へは数馬に遭遇しないで済んだ旨の返信だけしておくことにしたのだった。

倫子

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