監禁妻への折檻
六十八
一旦山荘に戻った倫子は庭に埋めておいた壜に詰めた合鍵の鍵束を取り出すと、その足で山へ向かうことにした。もう一刻の猶予もならない気がしていた。何かの確証を早く掴んで琢也に助けを求めるしかないと思ったのだ。このまま放っておくと自分が青髭の嫁になってしまうのではという不安がただの自分の妄想ではないという確証が欲しかったのだ。
部外者立入禁止と書かれた看板の下をすり抜けるのも、最早躊躇はなかった。何かあれば夫が土地を借りていると言えばいいのだと倫子は考えていた。
暫くすると、一度夫に連れてこられた古い屋敷跡が見えてきた。その家の裏手には倫子が裸で磔にされた十字架状に横木が渡された樹がある筈だった。
すぐ近くまで来て、思いのほか屋敷跡は荒れているのが分かった。
(俊介が子供の頃遊んだ時に廃屋になっていたというのだから無理もないわね。)
玄関の扉はもう半分壊れていて、最早鍵を掛けるのも出来ないほど傷んでいる様子だった。少しだけ開いたままになっているその玄関扉を倫子は身体を斜めにしてすり抜ける。
屋敷内は薄暗かったが、まだ明るい時分なので照明がなくても窓から挿す光で中は見通せた。あちこち大分傷んでいて崩れかかっているが、幾つか人が最後まで住んでいたらしい部屋は多少片付いて人が棲んでいた気配も感じられる。
(ほんとうに数馬はここに棲むつもりだったのかしら・・・。)
そんなことを考えながら一階のフロアから二階のフロアを巡った後、一階のフロアに戻った時に地下へ降りる扉があるのを見つける。
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