監禁妻への折檻
六十九
地下室はかなり奥深くまで続いている様子だった。一人で降りていくのはちょっと怖かったが、何とかして確たる証拠をつかみたいと倫子も必死だった。地下室は地上階からあかりが洩れてくるので真っ暗ではないが窓がおおい地上階に比べればかなり薄暗い。それでも徐々に目が慣れてきて奥のほうまで見通せるようになってくる。
(あれは、何だろう・・・。)
地下室の奥に何か別の小部屋のようなものがあるように見えたので、倫子はゆっくり近づいていく。かなり近くまでやってきて、壁いっぱいに鉄格子が嵌められていることに気づいたのだった。
(何なの、これは・・・。)
鉄格子の向こう側はまるで座敷牢のように壁と鉄格子で囲まれた空間だった。正面の壁に太い柱のようなものが十字に組まれていてその両脇の端から鎖がぶらさがっていて、先端には鉄の輪がついている。
(あれは、確か・・・。)
倫子が開かずの間の奥に踏み込もうとして躓きかけた鎖と鉄の輪に違いなかった。その鎖や鉄の金具を壁に留めている釘は他の部材とは違って比較的新しいもののようだった。鉄格子も両端は金具で壁に直接打ち付けられているものだった。
(ここだけ新しいわ。まさか、これって・・・。数馬が後から付けたものなのかしら。)
倫子はこの牢屋のような場所に閉じ込められて監禁された自分の姿を思い浮かべてみる。
(わたしを閉じ込めるために、わざわざ作ったもの・・・。まさか。)
倫子は頭に浮かんできたイメージを振り払おうとするが、逆に数馬に全裸のまま手錠を掛けられてゲストハウスの外側のベランダに閉じ込められたことを思い出してしまった。
(やっぱりそうだわ。あの時と同じ・・・。私を閉じ込める為に作られたものだわ。)
倫子の背筋に戦慄が走る。
思わず手にしていたポシェットから携帯電話を取り出すと、震える手で琢也の番号を押していた。
ツー・ツー・ツー。ツー・ツー・ツー。
なかなかつながらない。携帯の画面をみると電波がとても弱いことが分かる。
(外に出たほうがよさそうね。)
そう思った瞬間に呼び出し音が鳴り始めた。
ルルルルル。ルルルルルル。
「はいっ、樫山琢也です。」
(繋がったっ・・・。)
倫子は逸る心を抑えながら、とにかく落ち着こうとする。
「た、琢也っ? 琢也なのっ・・・?」
「その声は倫子だね。どうした。何かあったんだね。」
「助けにきて。わたし・・・。」
その時、遠くから車のエンジン音が聞こえてきた。
(もしかして、数馬・・・?)
「ごめん、琢也。またすぐ電話し直す。」
一刻の猶予も無いと思った倫子は階段を駆け上がる。あまりに慌てていて段を踏み外してしまい、転げ落ちそうになる。
(落ち着けっ。落ち着くのよ・・・。)
そう自分に声を掛けながら、傷む膝をこすりながら再度階段を昇り始める。やっと地上階へ出る扉まで辿り着く。
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