監禁妻への折檻
六十四
自分の寝室に駆け込んだ倫子はベッドサイドテーブルに置きっ放しになっていた俊介に届けて貰ったプリペイドの携帯電話を窓を開けて外に投げ放つ。それからすぐに着ていたワンピースの背中のジッパーを下すが、それと同時に数馬が寝室へ入ってきたのだった。
「ごめんなさい、貴方。お風呂に入ろうと思って服を脱いでたの。帰ってくるの、明日だと思ってたから・・・。」
倫子は裸だったのを今慌てて服を着直した風を装ったのだった。
「何だよ。裸で居たのかい? いいよ。俺なんだから、裸で迎えに出たって。」
「で、でも・・・。万が一、違う人だったらって考えたらまずは服を着なくちゃって思って・・・。」
「俺の声、聞こえなかったのかい?」
「だって。誰かと一緒だったら困るでしょ。」
「だったら窓ぐらいちゃんと閉めとけよ。外から覗かれないとも限らないだろ。」
倫子は数馬が目敏くさっき開けた窓に気づいたことにどきりとする。
「あら。昼間開けたの、そのまま忘れていたんだわ。まあ、こんな二階の窓から覗く人が居るとは思えないけど。貴方っ。今降りていくから、先に下に行っていて。」
琢也が勝手口から外に出るのにもう十分な時間が稼げたと思った倫子は窓を閉めながら、携帯電話を放り投げた先をちらっと窺ってみる。林の茂みの中で回収はもう不可能かもしれないと諦めることにしたのだった。
数馬が玄関から入って来た時には琢也はまだキッチンの物陰に潜んでいた。しかし倫子が機転を利かせたのか二階に駆け上がっていって、入ってきた数馬がすぐその後を追ったのでその間に勝手口から外に出ることが出来たのだった。玄関に靴を残してなかったのも琢也にとっては幸運だった。慎重に音を立てないように勝手口から出た琢也は、外に出てすぐに二階の窓から何かが外に放物線を描いて投げ放たれたのを目撃した。山荘から誰も出て来る気配がないのを確認するまで近くの茂みの陰に隠れていたが、もう安全だろうと見極めを付けると物が落ちて行った辺りに投げられたものを捜しにむかったのだった。
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