監禁妻への折檻
七十一
倫子は廃屋から逃げ出すことは出来ずに数馬に地下室まで引き戻され、逃げられないように手と足を縛り上げられ壁の太いパイプに縄で繋がれた状態で床に転ばされていた。
(いったい、数馬はこれからわたしをどうしようと言うのだろう・・・。)
数馬が言っていた謎の言葉が倫子の頭の中を何度も繰り返し巡り続けていた。
「まだこれから徐々にゆっくり馴らしていく積もりだったんだがな。地下室まで見られてしまったんならしょうがな。俺の妄想ごっこの最終段階にまで一気に付き合って貰う他はないようだ。準備がまだ全部は揃っていないんで、ここでもう少し待っているんだ。足りないものを今から家に取りに行ってくるからな。」
そう言って数馬は出ていったのだった。外で車のドアが閉まる音に続いてエンジン音が聞こえ、やがてそれは小さく遠のいていった。
(家に何かを取りにいったのかしら。だとするとあの開かずの間なのだわ、きっと。)
倫子はさっきちらっと見た地下室奥の座敷牢のような所を思い返していた。座敷牢と言っても昔の日本の座敷牢のようなものではなく、どちらかと言えば中世のヨーロッパの拷問部屋といった感じに見えた。
(あそこでまた、処刑されるお姫様を演じさせられるのだろうか・・・。)
倫子には数馬が言った『妄想ごっこ』という言葉がとても不気味に感じられるのだった。
忠男のスカGの低い呻くようなエンジン音が聞こえて来るのが遠くからでもすぐに琢也にも分かった。
「おーい、忠男。こっちだ。こっち。」
琢也が近づいて来る忠男の車に向かって手を振る。
「おい、琢也っ。家の中には居ないのか、あいつら?」
「ああ、もぬけの殻のようだ。忠男、急いでくれっ。」
忠男のスカGの助手席に乗り込むと、やって来た道を戻るように指示する琢也だった。
「別荘街の入り口のところに小さな店があったろ。そこへまずやってくれ。」
「おう、分かった。行くぞっ。」
山道を滑るように忠男のスカGが走り抜けていく。
「で、何か心当たりはありませんか、倫子が行きそうな場所って?」
ちょうど店番をしていた俊介を掴まえて、琢也が聞き質す。
「そう言えば、山の上の廃屋のことを話してましたね。えーっと、木崎さんちの山荘を通り過ぎて更にまっすぐ山の方へ暫く登っていくんです。途中で立入禁止の看板が出てて、そこからなら歩いて上がれるんですが、車はもう少し先に行くと一台がやっと通れるぐらいの細い車道があるんで、そこから廃屋の裏手に出れます。もしかしたらそこへ行っているのかもしれません。」
忠男と琢也は顔を見合わせる。
「行こうっ。」
再び忠男のスカGが山を駆け上っていく。
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