chastity belt

監禁妻への折檻



 五十五

 (こ、こんなものを・・・。どうして?)
 荷物を置いてきたキッチンに戻って急いで梱包し直そうとした倫子だったが、一瞬その手が止まる。
 (もしかして、わたしに・・・。)
 湧いてきた疑惑から包み直そうとしたものを再び取り出して自分の腰に当ててみる。腰回りのサイズはほぼぴったり合っているように思われる。
 それ以上想像したくなくて慌てて、しかし慎重に元あった通りに包み直す。

 開けた形跡が残っていないか何度も何度もひっくり返してチェックしてから、夫の書斎の机の上にそおっと置いておく。それ以前に配達された海外からの小包などは部屋中を見渡してみても置いてある気配はまったくなかった。
 (きっとあの開かずの間なんだわ。)
 そう思うと、何とかその部屋も見てみたい気持ちを抑えきれなくなってしまう。
 夫の数馬からはこの部屋だけは自分でするから掃除をしなくていいと言われていた。だから洗濯物を持って行ったり、夫宛の荷物を持っていく時ぐらいしか入ることはない。普段からどこに何がしまってあるのか倫子は全く把握していなかった。それでも慎重で用意周到な性格なのは長年の暮らしのなかでよく知っていて、大事なものを如何にもありそうな場所へ置くようなことはあり得ないとは思った。抽斗の奥とか、本棚の書物の裏側とかはまずあり得ないと思ったのだ。
 (意外と普通にあるけれど、私が絶対に手を出しそうもない場所・・・。)
 そう考えてみて部屋を見渡して、工具箱が目に入る。夫は家の中の修繕はよほど専門的なものでない限り、全て自分で修理や修繕をこなしていた。それは大工工事から電気工事、水回りの修理まで含まれ、それに必要な工具は専門家が使うようなきちっとしたものを取り揃えていた。それが自慢でもあるようだった。それに引きかえ、倫子は家の中の電球ひとつ交換したことはなく、ねじ回しのドライバー一つ手にしたこともなかった。大きな工具である電動ドリルやチェーンソーなどはガレージに纏めておいてあるのだが、家の中の細かい修繕に使う工具はまとめて夫の書斎の片隅の工具箱に何時でもすぐに取り出せるように置いてあるのだった。
 (まさかね・・・。)
 自分自身でも半信半疑で初めて夫が愛用している工具箱に手を伸ばしてみる。倫子でも分かるドライバー、ペンチ、スパナ類の他に、何に使うのか倫子には想像もつかないような工具が詰め込まれていた。しかしその隅の底の方にキーホルダーに纏められた幾つかの鍵束が出てきたのだった。しかもそのうちの一つには見覚えがあった。
 何時の頃からか、数馬は性生活の中に手錠を持ち込むようになった。縄で手首を縛ることも多かったが、簡単に自由を束縛出来るのが気に入ったのか時々使うようになった。おかげで手首に手錠の痕が付くこともあって、客が来ると痣のようになったその痕を隠す為にリストバンドが欠かせないものになったのだった。
 使った後は必ず最後に鍵で外して貰うのだが、何度か使ううちに倫子もその鍵を目にするようになった。
 (手錠の鍵って、こんなに小さいものだったんだ・・・。)
 そう意外に思ったこともあって、大きさ、形が倫子の頭に印象深く残ったのだった。その記憶にある鍵が数馬が愛用する工具箱の鍵束の中に含まれていたのだ。
 (きっとこのうちのどれかなんだわ。)
 そう確信した倫子は鍵束ごと持ちだし、二階の奥の隅にある開かずの間に向かったのだった。

 ガチャリ。
 鍵に手応えがあり、するっと廻ったことで当ったことが分かった。大きさから見当をつけた二つ目で倫子は鍵を探り当てたことを確信した。
 初めて目にするその扉の向こう側は倫子の想像とは違う殺風景なものだった。天井付近に明り取りの窓があるだけで、壁に囲まれた物置としか言いようのない部屋だった。様々なものが乱雑に置かれた中に、見覚えのある海外からの宅配便の段ボールも交じっていた。既に開梱されていて中身がどれだったのかはもうはっきりしないが、近くに乱雑に置かれた様々なものの一つであるのは疑いようもなかった。
 倫子が奥の方へ入ってみようとして足に何かが引っ掛かって躓きそうになる。薄暗くてよく見えなかったせいで、床に置いてあった太い鎖に足をとられたのだった。

倫子

  次へ   先頭へ



ページのトップへ戻る