監禁妻への折檻
七十三
「誰だ、そこに居るのはっ。おい、待てっ。」
上の方から数馬の怒鳴る声が響いてきた。誰かを追いかけているらしかった。その時だった。突然地下室への階段を駆け下りて来る足音が聞こえてきた。
「あ、琢也っ。琢也じゃないの・・・。助けに来てくれたのっ?」
牢屋の鉄格子にしがみつく倫子の元へ走り寄る琢也だったが、鉄格子の扉にはしっかりとした錠が掛かっている。その錠前を力ずくで何とかしようとしていた琢也だったが、錠前はびくともしない。
「くそう。駄目だな。鍵は何処だろう・・・。」
琢也が辺りを見渡している。その時、倫子の頭に閃いたことがあった。
「琢也っ。もしかしたらあの鍵束の中にあるのかもしれない。ねえ、階段の上の隅に私のポシェットがあるの。その中に鍵束が入っているから持ってきてっ。」
「え、階段の上? 分かった。待ってて。」
琢也が再び階段を駆け上がっていったかと思うと、鍵束を手に戻って来た。
ガチャリ。
鍵が廻る音がして錠がパチンとはじけて外れた。
「逃げるんだ。走って、倫子っ。」
素っ裸の倫子の手を引いて琢也が階段を昇っていく。
「さっきのは? 数馬が後を追って行ったみたいなんだけど・・・。」
「あれは忠男さ。囮になって貰ったんだ。でもあんまり時間は稼げないと思う。急いでっ。」
倫子の手を引いて、数馬のものらしい赤いグランドチェロキーの脇をすり抜け、忠男から借りておいたスカGの隠してある場所へと走っていく。
「乗ってっ。」
倫子が助手席に乗り込んでドアを閉める前には琢也はスカGのエンジンを掛けていた。
「行くよっ。」
走り出すスカGからバックミラーをチラっと確認した琢也の目に、追掛けてきた数馬が赤いチェロキーに乗り込むところが見えた。
「まずいな。向こうは四輪駆動車かあ。追いつかれるかもな。」
そう言いながらも琢也もスカGのアクセルを目いっぱい踏み込む。
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