監禁妻への折檻
五
「そろそろあいつら、到着する頃だな。」
「そうね。お昼過ぎには向こうを出るって言ってたんでしょ。なら、もう来てもいい頃かも。ね、この服、おかしくないかしら。齢相応とは思えないんだけれど・・・。」
倫子はスカート丈が短すぎるのではと思ったのだ。数馬は倫子がミニスカート以外を穿くのを好まなかった。特にこの蓼科の山荘ロッジに引っ越してきてからはそれが極端になって、許さないと言ってもいいほどだった。倫子もこの山荘ロッジに来てからは普段殆ど他人とは逢わないので、数馬がそれで機嫌を損ねないのならいいかと他人の目を気にしなくなったのだ。その唯一の例外が三河屋の御用聞きの俊介なのだった。
「彼らが来る前に、もうひとつ。言いつけがある。」
窓から外の様子を見ていた倫子に背後から掛けられた数馬の声にはっとなる。振り向いた倫子に、自分に向けて手の平を上向きにして伸ばしている数馬の腕が目に入る。それは昨晩バスルームで他人には知られたくない仕打ちを受けた時からもしかしたらと心の奥底で予感していたことだった。その嫌な予感は的中してしまったのだった。
(この人は、あの時と同じ事をまたさせようとしているのだわ・・・。)
倫子に屈辱の過去の思い出が蘇ってくる。
「どうしても・・・ですの?」
「何度も言わせるなよ。」
夫の数馬は不機嫌そうにぴしゃりと言い放った。
倫子は一瞬唇を噛んで抵抗の意思を示そうとしたが、無駄に夫を不機嫌にさせるだけだと思い返して夫の言うことを聞くのだった。
「お、来たみたいだぞ。お前、行って出迎えて来いよ。」
「え、わたくしが・・・ですか。」
「ああ。その方が、あいつらも喜ぶだろ。お前には久しく逢ってないだろうから。」
数馬は東京の方で何度か樫山や久家たちとは逢って酒も飲んでいるのだが、自分は結婚以来、逢う機会は殆どなかった。特に蓼科の地へ引っ込んでからは一度も逢ってはいないので、そう言われると自分が行かないという理由が思いつけない。出来れば外には出たくない倫子だったが、夫にそう言われると行かざるを得なくなる。
「分かりましたわ。お連れしてきます。」
そう言うと、心許ないスカートの裾を抑えるようにしながら玄関口へ向かう倫子だった。
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