監禁妻への折檻
二十三
「あれっ、みっちゃんは居ないのかい?」
数馬が一階のリビングで呑み直そうと誘いにきたので降りてきた忠男と琢也だったが、てっきり居ると思った倫子の姿がないのに驚いて忠男が訊く。
「ああ、夕食の時ワイン呑み過ぎたらしくて先に寝るって。」
「そうなんだ。みっちゃん、そんなに酒は強くなかったんだっけな。」
「まあいいじゃないか、忠男。男だけで呑むのも悪くはないんじゃないか。なあ、琢也。」
「そうだよな。倫子さんにはいろいろ料理を出して貰ったし、先に休ませてやろうよ。」
「そういうとこは、お前女に優しいんだよな。琢也はいつも。」
「別にそんな事はないさ。数馬だって、昔の話は倫子さんの前じゃしにくい話もいっぱいあるだろ?」
「何だっけ、倫子の前でしちゃいけない話って。」
「ほら、例えばサチ子のこととかさ。」
「ああ、ありゃ拙いよな。なあ、数馬。」
「おいおい。なんだよ、藪から棒に昔の話なんか持ちだしやがって。いいか、サチ子のこととか絶対倫子の前でするなよ。」
「ほら、他にもいっぱいあるじゃないか。昔の武勇伝・・・。」
「ああ、まあいいから呑み始めようぜ。ウィスキー、水割りがいいか?」
「ああ、俺は水割り。」
「数馬。俺はロックで頼む。」
「じゃ、かんぱーい。」
「乾杯。」
「それでさあ、さっきの昔のことだけどさあ・・・。」
男三人の話は酒の勢いもあって延々と続いていく。
「で、あの時、忠男が数馬の代わりになってサチ子に俺が抱いてやるって言ったんだよな。な、忠男。あれっ、忠男? 起きてんのか?」
「う~ん。ああ、・・・。う~む。」
「おい、忠男。お前、もう半分寝てるな。おい、数馬のほうはどうなんだよ?」
忠男が半分寝惚け眼になっているのをみて、数馬の方に向き直った琢也は数馬の方が既にぐっすりと寝込んでいることに気づく。
「ったく、もう。だからペースが速いって言ったんだよ。酒に弱い忠男はしょうがないとしても、数馬の方まで酔いつぶれちまうとはな。」
琢也の方も普段よりはかなり呑んではいたが、元々酒には強い質なので二人のように酔いつぶれてしまうことは滅多にない。それに風呂の後、一度ベランダで酔いを醒ましたのも効いているようだった。
「まいったな。寝室は二階だし、二人も運ぶのは事だな。」
その時ふと、琢也は倫子のことを思い出す。
(寝室へ運んだものかどうか、倫子に相談してみるかな。)
二階の部屋のレイアウトはゲストルーム以外は分からなかったが、もし明かりが点いていたらそこだろうと念のため行ってみることにしたのだった。
大きな音を立てないように静かに階段を上がると、二階の各部屋を廊下から見回してみる。ゲストルームとは反対側の奥に、ドアの隙間から微かに光が洩れているのが分かる。
(あそこだな、きっと。うまくまだ起きていてくれればいいのだが・・・。)
そう思いながら近づいていって軽くドアをノックしてみる。
「みっちゃん。まだ起きている?」
「・・・。」
返事がないので諦めて階下に戻ろうとしたとき、中から声が聞こえてきた。
「琢也・・・なの?」
「ああ、よかった。まだ起きてた。」
琢也はドアの把手に手を掛けて押し下げてみる。
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