監禁妻への折檻
十七
「ちょっと見てこよう。」
そう言うと、数馬は立ち上がって窓の外でも確認するかのようにリビングに繋がる扉の方へ向かう。その扉の向こうでは縛られて吊るされた倫子が我慢の限界を迎えて失禁しているのが見て取れた。あまりの仕打ちに倫子はうな垂れて入ってきた数馬を見ることも出来ないでいる。その倫子の足許の洗面器には小水が溜まっているものの、一部は倫子の内股を伝って床にも零れ出ているのだった。
「ああ、ちょっと粗相をしちゃっただけみたいだ。雨じゃなかった。」
そこまで数馬が言ってキッチンへ再び戻って扉を今度はしっかり閉めてしまったので、その後の話し声は殆ど聞き取れないぐらいになってしまう。
(粗相をしただなんて・・・。何てことをしゃべってしまうの?)
倫子は口惜しさに歯ぎしりしたくなる思いで二人のその後の会話を想像するのだった。
「粗相って、どうしたんですか?」
「あ、いやね。猫なんだよ。倫子のやつが野良猫を拾ってきてね。飼いならそうってしてたんだよ。そしたらその猫のやつ、テーブルの上にあがって水の入っていたコップを倒しちゃってね。その水が猫のトイレットトレーニング用に持ってきていた洗面器の中に偶々零れ落ちたんだ。だから僕は拾い猫なんて飼うのは止せって言ってたんだけどね。」
「大丈夫なんですか。床とか拭いておかないと・・・。」
「ああ、すぐに倫子が帰ってくるから掃除させとくよ。あいつが猫を飼おうなんていうから起きたことなんだから。叱りつけて猫も外に戻しておくように言っておくよ。ああ、でもこのことはあいつが傷つくから、あいつとの間では話題にしないでおいてくれないか。」
「ああ、わかりました。大丈夫です。何も知らなかったことにしておきますから。」
俊介は全く疑いもせずに、コーラを飲み干すと勝手口から木崎家を出て行ったのだった。
結局その後、倫子は夫が俊介に何と説明したのか問い質したかったが、訊けば恥ずかしい思いをするだけだと思って聞かず終いになったのだった。それで倫子は三河屋の俊介にはもう顔を合わすことが出来なくなってしまった。かと言って時々は配達をして貰わないと生活が出来ないので、電話で注文だけしては配達に来ると玄関先に荷物だけ置いていって貰うことにして、直接は顔を合わさないで済むようにしていたのだった。
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