監禁妻への折檻
四十六
蓼科の木崎数馬と倫子が棲む山荘ロッジを訪ねた後、あらためて倫子から届いた年賀状の山荘来訪の誘いの文面を読み返していた琢也だった。
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あけましておめでとうございます。
お変わりありませんか。一度こちらへもお越しくださいませ。
ご親友の忠男さんと一緒に
琢也さんもいらっしゃってみませんか。先だって、
忠男さんをお誘いしてみたところ、あの方も琢
也となら行ってみてもいいというようなことを仰ってました。
今でも会社に入社したて頃、皆さんと
たのしく過ごした日々がなつかしく
おもいだされます。
すでに住所はご存じのことと思います。
是非一度いらしてみてください。
けれど決して無理は
なさらないでくださいね。
てすきの時を見計らってで結構ですので
是非旧交を温められればと思います。
倫子
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最初受け取った時、何となく違和感があったのは冷静に考えてみれば例年届く年賀状とは違って手書きだったことだ。いつもはパソコンを使ってプリンタで印刷されたものだったからだ。
(きっと年末になって急にパソコンかプリンタの調子が悪くなったんだな・・・。)
自分にも同じ経験があった琢也は自然にそう思ったのだが、もう一つ何時もの年賀状とは異なるところがあった。いつもは夫の数馬と妻の倫子で連名で来るのに、この時は倫子の名しかなかったからだ。
しかし、それも急遽慣れない手書きになってしまった為に、代筆を頼まれている倫子がつい自分の名前だけ書いて、夫の名前を連名で記するのを忘れてしまったのだろうと思っていた。しかし今になって思い返せば、もしかしたらわざと自筆で自分だけの名前で出したのではないだろうかという疑惑がふつふつと沸き起こってくるのだった。
思い返してみれば山荘を訪ねた二日間のあいだ、琢也から見た倫子の様子はどことなくぎこちないものがあったように思われた。姿、格好こそ昔と変わりない齢を感じさせないものがあったのに、以前のようなはしゃいだ明るい雰囲気が感じられなかったのだ。
(山荘の暮らしは、倫子にとって必ずしも心地よいものではないのかもしれない・・・。)
琢也はもう一度忠男に逢って、どう感じたか確かめてみたい衝動にかられたのだった。
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