結婚前

監禁妻への折檻



 三十三

 倫子が数馬からの結婚の申込を受けることを決めたのは、次々に結婚で寿退社をしていく同期の女性の中で親友だった有働史子が結婚することになったと倫子に告げた入社四年目のことだった。倫子は入社以来、テニス、スキーと遊びまわった同期仲間の中で樫山琢也に密かに恋焦がれていたのだが、琢也からは結婚したいような素振りもなかったのだった。
 倫子は大会社の重役を父親に持つ資産家の一人娘で、横浜の豪邸から通っていた。琢也も倫子のことを憎からず想っていたのだが、結婚するには身分が違い過ぎると敬遠したのだった。
 数馬の方は結婚直前まで複数の女性と付き合いがあったのだが、倫子が琢也に想いを寄せているらしいことを知って、横取りしたくなって急遽結婚を申し込んだのだった。
 その結果、行き遅れるのを懼れた倫子は数馬の求婚を受け入れることにして、親に実家の敷地内に建てて貰った家に数馬と棲むことになったのだった。二人の子供に恵まれ、その子たちも成人して独立してしまった後、両親が次々と他界して巨額の遺産と土地家屋を相続した倫子だったが、その遺産処理は全て数馬に任せてしまったので、どのように相続したのかは倫子は一切知らないままだったのだ。
 両親が他界してまもなく会社で早期優遇退職の話が持ち上がり、数馬がそれに応じると言い出したのだ。そればかりかずっと棲み続けた横浜の実家を出て、蓼科に山荘ロッジを購入してそこに移り住むと言い出したのだった。倫子としては住み慣れた実家を離れるのは忍びなく不本意ではあったのだが、一人捨てられるのではと懸念して夫に着いていくことにしたのだった。
 数馬は早期優遇退職で会社は辞めたものの、契約社員として嘱託の身となり週三日の勤務を蓼科から通ってこなすようになったのだった。その為の単身用のアパートを都心に持つようになってすぐに妻の倫子には内緒で付き合うようになった女が出来たのだった。それが一條朱美だった。数馬は東京に出た際の行きつけのバーで呑んでいて同じように独りで呑んでいた朱美と知り合ったのだった。朱美はSMクラブのS嬢として勤めている女だった。知り合って以来、週に一、二度、数馬は朱美のアパートで夜を過ごすようになっていた。

倫子

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