ドアレバー

監禁妻への折檻



 三十八

 (あれっ? 動かない。)
 トイレのドアの把手をいつものように押し下げようとしてびくとも動かないのに倫子は不審に思う。何度かガチャガチャ言わせてみるが把手は全く動かないのだ。
 首を傾げながらドアの把手の付け根をよく見てみると、見慣れない穴があるのに気づく。
 「え、鍵穴・・・? こんなところに鍵穴なんてあったかしら。」
 内側から掛けるロックは付いていたと思うのだが、外から掛ける鍵穴があるとは思いもしなかったのだ。
 (まさか・・・。)
 念のために二階のトイレにも小走りに向かってみる。しかし二階のトイレのドアの把手もびくとも動かないのだった。
 (そう言えば・・・。)
 倫子は忠男と琢也がやって来ることになった少し前に、数馬が工具箱を出して日曜大工のようなことをしていたのを思い出したのだ。
 (確か、トイレの鍵が引っ掛かるから直すんだとか言ってた・・・。)
 間違いなくトイレのドアは外からでも鍵が掛けられるように改造されていたのだった。
 (わたしにトイレを使わせないため・・・?)
 そんな事を考えていると、階下から俊介の事が聞こえてきた。
 「奥さ~ん。旦那さんから電話みたいですよぉ。」
 「え、電話・・・?」
 (電話だなんて・・・。うちには固定電話は無いから、夫の携帯しか無い筈なのに。)
 慌ててキッチンに戻ると、俊介が手にしていたのはまさにその夫の携帯なのだった。
 「あら、主人のだわ。忘れていったのかしら・・・。」
 俊介から携帯を受け取って出てみる。
 「あ、倫子か? どうも携帯を忘れたみたいで、店の人に電話を借りて掛けてみたんだ。よかった。家に置き忘れたんだな。これから戻るから、じゃあ。」
 倫子がトイレの鍵のことを聞こうとした時にはもう電話は切れていた。
 (まあ、いいわ。帰ってきたら聞いてみよう。)
 そう思ったが、夫が戻ってくるまで我慢が出来るか不安になる。
 「俊ちゃん。やっぱり夫だったわ。携帯、持って出るのを忘れたんですって。ああ、うちには夫の携帯しかないの。わたしは殆ど使わないし、必要な時は夫に借りることになっているの。」
 「へえ。でも、旦那さんが出掛けてるときは困るでしょう。」
 「そんなことは滅多にないわ。急に電話しなくちゃならない相手なんて、居ないもの。それに緊急の時は三河屋さんまで走っていって電話借りるわ。そのくらいいいでしょ?」
 「ああ、うちは全然構わないっすけど。まあ、電話なんか無くっても生活出来るもんかな。」
 「うっ・・・。」
 倫子は急に尿意が強くなってきて、思わず声を出しそうになる。やっと尿意から解放されると思っていた矢先に、トイレに鍵が掛けられているのを知って狼狽えたせいかもしれなかった。

倫子

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