監禁妻への折檻
四十五
その日は夫が東京での勤務と宿泊を終えて三日ぶりに山荘へ帰ってくる日だった。その夫の帰宅前に久々に郵便物が届く。小さな箱入りの小包で海外からのものらしかった。
(海外からだなんて、いったい何だろう・・・。)
中身に興味を惹かれた倫子だったが、開けてみる訳にはいかないので梱包されたままの荷物を夫の部屋に持ってゆく。久々に入る夫の部屋だったが、以前には見かけたことのないような書物が幾つか並んでいた。題名には中世とか魔女とか拷問とかちょっとまがまがしい文字が並んでいる。
(中世っていう言葉、何処かで聞いた記憶があるけど、どこでだったかしら・・・。)
すぐには思い出せず、そのまま数馬の部屋を後にした倫子だった。
「なあ、今日俺宛に小包が届いていたろ。あれっ。中、見てないよな。」
「ああ、夕方届いた海外からのものね。もちろん、中身なんて見ないわよ。貴方宛でしたもの。」
そう答えた倫子だったが、夫がわざわざ訊ねたことで余計に気になったのだった。
「俺宛に届くものは決して勝手に開けたりするなよ。いいな。」
(そんな事、確認しなくたって・・・。)そう思った倫子だったが、顔には出さないようにする。夫の数馬は電動ドリルやチェーンソーなど、大掛かりな大工道具を通販で時々買ったりしていた。それはそれで家の修繕などでは役に立っているのだが、そういうものの類いなのだろうと倫子は思っていた。
二人の山荘ロッジには「開かずの間」とも呼べるような部屋がひとつ作ってあった。越してきた時から数馬がずっと施錠していて、鍵は数馬だけが持っているので倫子は中に何がしまってあるのか全く知らなかった。その日届いた荷物もきっとその中にしまわれる物なのだろうとは思ったが、倫子は深く詮索しないことにしている。以前にこの部屋について何気なく、「まるでペローの青髭みたいね。」と言ってしまったことがある。数馬は知らなかったようで、「何だ、それは?」と一蹴されてしまって終わったのだったが、後で自分で言ってみて後悔したのだった。知らない方がいいこともあるのだと思う事にしたのだった。
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