監禁妻への折檻
四十
「で、何の話だったっけ、俊介くん。」
「あ、ほら。介護が必要な方がいらっしゃるって話ですよ。」
倫子は一瞬どきっとする。
「あ、それは数馬さんのお義母さんの話よね。大人用の紙おむつが必要かもしれないって言ってた・・・。」
倫子は慌てて自分の話と食い違わないように説明する。
「ん? あ、ああ。そのことか。うん、うん。そうなんだよ。こいつがね。そういうの、用意しておいた方がいいんじゃないかって言うんだ。それでね。」
「東京の方にいらっしゃるんですってね。」
「ん? あ、ああそう。でね、こいつがどんなものか確かめてからじゃないとって言うんで試しに注文してみたんだ。」
「ああ、それでこの間・・・。」
「そうそう。大人用の紙おむつってどんなものか分からないからこいつが一度試してみるって。なあ。」
突然振られて倫子は慌てる。自分が紙おむつを試したという話になってしまったからだ。
「え、えーっと・・・。」
「意外とちゃんと吸い取れるって言ってたじゃないか。」
「えっ、そうだったかしら。」
俊介の前で紙おむつにしてみたという話になってしまって、倫子は顔を赤らめる。実際、そのほんの一瞬前に実際に紙おむつに初めてしてみたからだった。
「今のはすごくよく出来ているらしいですね。あ、うちでも扱っているんで何だったらうちで取り寄せて東京にでも配達させること出来ますよ。」
「ああ、いや。そこまでして貰わなくても。あっちでも買えるから。この間のは試してみる為だったんだ。残りは今度僕が東京に行くときに持っていくことになっているんだ。」
「ああ、そうだったんですね。」
もはや自分が紙おむつを使ったのだということを否定出来なくなって、恥ずかしさに倫子は俊介の顔を見ることも出来ない。倫子は数馬が「実はこいつ、今まさに紙おむつをしてるんですよ」などと言い出すのではないかと気が気でなかった。
「あ、済みません。奥さん、ちょっとおトイレ、お借り出来ないでしょうか。ずっと呑みっぱなしで溜まっちゃってて・・・。」
「あ、えっ。で、でも・・・。」
「トイレなら廊下に出てまっすぐ行って左側だよ。」
「あ、済みません。じゃ失礼して。」
俊介が立ち上がって廊下に出て行くのを見て、倫子は数馬に問い質す。
「おトイレに鍵が掛かっているみたいだったんですが・・・。」
「ん? 鍵なんか、掛かってないよ。僕がさっき外しておいたからね。でも、なんで鍵が掛かってたって知ってるんだ? もしかして言いつけを守らないでトイレでしようとしたのかい?」
「え、そ、それは・・・。」
倫子はこっそりトイレを使おうとしたことが思いもかけずばれてしまって狼狽える。
「嘘を吐いたんだね。じゃ、罰を与えるよ。」
数馬が言う罰というのは、翌朝まで紙おむつを外してはならないというものだった。俊介が帰った後に再びすべてのトイレに鍵を掛けてしまうのだろうことは最早疑いようもなかった。明日の朝まで何度紙おむつにしなければならないのかと思うと、途方に呉れてしまう倫子だった。
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