監禁妻への折檻
三十九
「あ、あの・・・。」
(ちょっと外してくる)と言おうとして、今席を外したばかりなのを思い出して、その先の言葉が思いつかなかった。
「どうかしましたか? 何か、顔色が悪いみたい。」
「え、そ、そんなことはないわ。えーっと・・・。俊ちゃん、もう少し呑む? ビールだったらまだあると思うけど。」
「あ、どうしようかな。そんなに呑んだらトイレが近くなっちゃいそうだな。じゃ、もう一杯だけ。」
「あ、じゃ今だすわ。」
倫子は冷蔵庫から新しいビールの缶を出して俊介のグラスに注ぎながら、俊介がトイレを貸してくれと言い出したら何と答えればいいのかと思い悩む。しかし目下のところ、自分の方が先に限界を迎えそうだった。
「奥さん、寒いんですか?」
「え、どうして・・・?」
「なんか、震えているみたいだったから。」
「そ、そんなこと。無いわよ。」
そう言い切った倫子だったが、我慢の限界を認めざるを得なかった。
「ごめん、俊ちゃん。わたし、ちょっと・・・。」
なるべくそおっと立ち上がった倫子だった。
(ちょっと自分の部屋に行ってくる)そう言おうとした瞬間だった。後ろから俊介が肩を抑えてきたのだ。
「大丈夫ですか。調子悪そうですよ。部屋に行って休んだら?」
突然、身体に触れられたことでびくっとしてつい括約筋が緩んでしまった。自分でも洩れ出しているのが分かる。するともう動けなかった。
「あ、あの・・・。ちょっと・・・、め、めまいがして・・・。」
「じゃ、動かないほうがいい。ちょっとここに座って。」
「あ、駄目っ。触らないでっ。」
倫子は洩らしている音が聞こえないことを祈りながら括約筋を緩めることしか出来ないのだった。
その時、数馬がキッチンに入って来る。
「やあ、携帯。済まなかったね。こっちにあったか。ああ、これっ。ウィスキーとつまみ買ってきた。倫子、氷とグラス出して俊介にも注いでやってくれないか。ああ、ウィスキーはリビングの方で呑もうか。そっちのほうが落ち着けるだろうから。俺はちょっと部屋に財布を置いてくるから。」
数馬の言葉に倫子は自分の部屋に戻るタイミングを失ってしまうのだった。
「大丈夫ですか、奥さん。」
「あら、もう大丈夫。今、ウィスキーの準備するからリビングのソファの方で待ってて。」
俊介がビールのグラスの残りを持ってリビングの方へ向かう姿を見送りながら、倫子は身体をぶるっと震わせる。最後の一滴まで出しおおせたようだと倫子は安堵の溜息を吐く。
倫子が氷をアイスペールに入れて新しいグラスと共にリビングに持って行くと数馬はもう俊介の傍に座っているのだった。
「ウィスキーと氷、お持ちしましたわ。」
「ああ、ありがとう。お前もこっちに一緒にお座りよ。」
「あ、ええっ・・・。」
数馬に言われて仕方なくソファの隣に座る倫子だった。
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