指名2

妄想小説

恥辱秘書






第二十章 命令を拒めないキャバ嬢


 二

 「お待たせ致しました。このコスチュームでお気に召しましたでしょうか。」
 裕美はひとつ深呼吸をしてから、やっと慣れてきた作り笑みを浮かべて言った。
 「やあ、やっぱり裕ちゃんは、その格好が一番好きだなあ。身体の線が凄くいい。」
 そう言いながらも、沢村役の原の視線は股下ぎりぎりまでしかない超ミニの裾に釘付けになっている。
 「貴方はそこにお座りなさいな。」
 美紀が、クラブのママでもあるかのように、裕美に原の真正面の低いスツールを指し示す。
 裕美が手にしていたポシェットをガラステーブルの隅に置き、ずり上がってしまう裾の上に両手を置いて隠しながらスツールに腰を落とす。原の目は露わになる太腿の付け根辺りをずっと追っている。
 「座る時は、両手は脇に垂らすのが礼儀じゃなくって。」
 美紀がぴちゃりとそう言い放つ。それが意味しているものは痛いように裕美には分かる。
 「ああ、そうしてくれないかな。」
 沢村役の原も、調子に乗って美紀に合わせる。裕美は俯いて唇を噛み締めるが、恥ずかしそうに俯いたまま答えるのだった。
 「お客様がお望みになるのでしたら、仰せの通りに。」
 そう言うと、腿の上で裾の奥を隠していた両手を解いて、腰の両脇に垂らす。デルタゾーンが丸見えになるのが、真正面の原には勿論のこと、斜めから覗いている美紀にもはっきり見える。
 「ふうん、さすがね。何でも客の言う通りになるさせ子が居るって評判を聞いてきたんだけど、その通りね。言われればパンツでも丸見えにするんだから。」
 美紀の侮蔑的な言葉に、裕美は俯いて屈辱感に堪える。聞こえなかった振りをするしかないのだった。
 「ねえ、沢村さま。あなたが評判を聞きつけてこの店を選んだのよね。何でも客の言いなりになるキャバ嬢が居るって。どんな子か見てみたいって、私も誘ってくださったのよね。」
 「ああ、そうなんだ。君が仕えていた長谷部さんも、芳賀君も都合が悪いっていうもんだから、美紀さんに代わりに付いてきて貰ったんだ。」
 「そうよ。今日は、沢村さまに存分に楽しんで貰えるよう、しっかり接待してくれって、長谷部専務からも芳賀部長からも、くれぐれもって頼まれているの。だから、しっかりお仕えするのよ。」
 美紀の言葉の最後は、完全な命令口調だった。
 「しかし、何でもするっていうさせ子が、君だったとはね。」
 沢村になりきっている原は、いかにも驚いたという風と、裕美でラッキーだったという顔をしてみせる。しかし、それも全くの演技なのだが、裕美は気づきもしないのだった。

 酒の席で盛り上がっているのは、沢村と美紀だけだった。裕美に恥ずかしい思いをさせては二人で笑い転げていた。それを作った笑みを絶やさないようにしながら裕美は必死で堪えていた。
 二度、三度に亘る過去の接待で、裕美のことをよく知っている二人だった。過去に冒してしまった粗相の失態までもしっかり覚えていた。そんな二人が、裕美は何でも客のいいなりにならなければならないことを既に知っている。裕美にとって、最悪のシチュエーションなのだった。
 裕美がしてしまった粗相のことを何度も蒸し返して嘲っては、笑い合っている。耳を蔽いたいようなそんな会話に、裕美は愛想笑いをしながら堪えているしかないのだった。
 「そうだ。君も少しは飲み給えよ。」
 酒には一切手を付けていない裕美に気づいて、沢村が気を利かせて言ったように聞こえた。
 「あら、駄目よ。何時かみたいに、酔い潰れてしまったら、最後までちゃんとお仕え出来なくなっちゃうじゃないの。今日は最後まで素面で居るのよ。」
 酔って何もかも分からなくなってしまいたいほどの裕美だったが、美紀の冷たい言い草がそれさえも封じてしまう。素面で居ることがこんなに辛いと思ったことはなかった裕美だった。
 「そうだ。私たちだけ呑んでちゃ悪いから、アンタには水を呑ましてあげる。いいこと、私たちが一杯呑む度に、アンタも付き合ってタンブラー一杯飲み干すのよ。」
 「ああ、そうだね。それでおあいこだ。じゃ、これ今までの分。さ、呑んで。」
 裕美には意地悪な美紀の企みをすぐに悟った。以前の接待の時に、紙おむつをしてまで、トイレに立つ事を禁じた美紀のことを裕美は思い出していた。
 「あ、飲み干したね。じゃあ、早速もう一杯。みなで乾杯だ。」
 そう沢村が言うと、傍の美紀がすかさず水割用の水が入ったジョグから、裕美のタンブラーになみなみと水を注いでゆくのだった。

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