顔拭きブリーフ

凋落美人ゴルファーへの落とし穴



 第二部



 三十八

 何時の間にかステージ上の司会者の脇には全裸でブリーフ一枚しか着けてない若い男性がやって来ていて、腰に両手を当てて下半身の膨らみをこれ見よがしに観衆に見せている。司会者が無言でその男性に合図すると、男性は皆の前でするするとそれ一枚しか身に着けていない下着を降ろして足から抜き取ると、司会者の女性に渡す。丸裸になった若い男は両手で股間を隠しながらステージからあっと言う間に姿を消してしまう。
 司会者はヨンのすぐ横に立つと、片手でヨンの背後から手を回して二の腕を掴み、もう一方の手に持っていた男性が脱ぎ取ったばかりの白いブリーフを観衆によく見えるように翳してからヨンの口元に持って行って、涎とバナナに塗られていたオリーブオイルでベトベトに汚れた顔を拭うのだった。

顔拭い

 司会者はダビデ像と全裸女性のパネルが片付けられたのを確認すると、ヨンの乳首を挟み込んでいたWクリップをまず外す。
 「あうっ・・・。」
 乳首を抓られていた痛みから漸く解放されてヨンは思わず声を洩らしてしまう。
 「さ、今度はアイマスクも外してあげるわね。」
 司会者がヨンの頭に手をやってアイマスクをそっと外す。やっと視界が戻ったヨンは会場の光に目が慣れてなくて、暫く目をしばたかせてから自分が運んだらしいバナナの皮だけ残って突き刺されている帽子掛けと、丸い孔の開いたもうひとつの帽子掛けに刺さっているバナナの実を改めて眺める。
 (あんなものを咥えさせられていたのだわ。)
 ヨンは自分がさせられた罰ゲームが卑猥なものを連想させるものだったことに気づく。しかし実際にはヨンが思っていたよりももっと卑猥なことをさせられていたとは気づかない。
 「立派にバナナ運びを成功させたご褒美に、警官ゲームの手錠はもう外してあげようと思うんですが、皆さんどうですか?」
 観衆からはうーんという不満そうな声と、よくやったとばかりに手を叩いて罰ゲームの成功を称える声の両方が上がっていた。
 「どうかもうこの手錠はお赦しください。」
 ヨンは涙目になりながら後ろ手錠のまま観衆たちにふかぶかとお辞儀をして見せるのだった。その様にリ・ジウは司会者に向かってウィンクをして合図を送る。
 「では、手錠はこれで外すということにします。さ、ヨンさん。後ろ手をこちらにお出しになって。」
 ヨンが後ろ手を突き出すと、司会者は手にしていた手錠の鍵を回してヨンを解放する。
 (ああ、助かったわ。もうこれでパンツを丸見えにしてる格好からも逃れられるのね。)
 「あの・・・。化粧室に行ってお化粧を直してきたいんですけど。」
 「ああ、そうですね。それがいいかも。皆さ~ん。ヨン・クネさんが一旦退席しまあす。ゲームを見事にこなしたヨン・クネさんにもう一度盛大な拍手をっ。」
 ヨンは自分の席に置いてあった化粧ポーチを取ると一目散に化粧室へ向かう。ステージを降りる際に、見慣れないものがステージの隅に置かれているのが目に入る。
 (何だろう・・・。あんな、もの、何時からあんなところに・・・。)
 ダビデ像の横を通り過ぎる際に初めて像の前面側をちらっと見てヨンは思わず愕然とする。その像の股間には罰ゲームに使った帽子掛けと同じように中身が毟り取られたバナナの皮の残骸が刺さっていたからだ。
 (ま、まさか・・・)
 ヨンはもう何も考えないようにしようと化粧室へ小走りになって向かうのだった。



yon

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