
凋落美人ゴルファーへの落とし穴
第一部
一
(えーっと、1975号室・・・。ここだわ。)
そのドアには海外アスリートのブローカーを名乗る鮫津という男から指示されたホテルの部屋番号が確かに記されていた。ヨン・クネは日本の超一流ホテルである赤坂プリンセスの19階の一室へ面接へ来るよう指示されていた。
日本でも自分の顔はよく知られていることは重々認識していた。しかし迂闊に自分が日本の高級ホテルの一室に来ていることなど、絶対に公に、そして取り分け週刊誌などのマスコミの記者やカメラマンなどには知られる訳にはゆかないのだった。
少し濃い目のサングラスを掛けて野暮ったいとも言える長めのベージュ色のコートを羽織ってホテルまでやってきたのだが、先ほど指示された19階にあるトイレでコートは脱いで鞄に詰め、その下に着てきた自分が持っている中で丈が一番短いスコートのゴルフウェアの姿になっている。ゴルフウェアで来るようにというのも指示の一つだった。

さっきトイレで超ミニのゴルフウェアになった自分の姿を撮った写メをもう一度スマホで確認してみる。
(これなら完璧な筈だわ・・・。)
ヨン・クネは大きくゆっくり深呼吸すると、意を決して1975と書かれたドアをノックする。
コン・コン・コン。
「あの、こちらへ伺うように指示を受けたヨン・クネですが・・・。」
暫く間があって、部屋を間違えたのではと不安になったヨンだったが中から囁くような声の返事があった。
「入りたまえ。」

次へ 先頭へ